小室哲哉(イラスト:ハセガワシオリ)

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毎年、この時期になると思い出さずにはいられないドラマがある。95年10月期のテレビ東京系ドラマ『クリスマスキス イブに逢いましょう』だ。
企画・監修に秋元康、監督に堤幸彦、音楽プロデュースに小室哲哉。トップクリエイターが集結し、テレ東が新たにドラマ班を編成するほどの意欲作だったが、夜10時の時間帯にもかかわらず、平均視聴率はわずか2.08%。盛大にコケたカルトドラマである。

「生まれ変わり」「多重人格」複雑怪奇なサイコ・サスペンスドラマ


ジャンルで言えば、複雑な人間関係とそれぞれが持つ「裏の顔」が絡むサイコ・サスペンス。
婚約者ばかりが襲われる「フィアンセ連続殺人事件」、そこには主人公の「前世」が大きく関わっていたのだった……。

90年代前半、海外ドラマ『ツイン・ピークス』や映画『羊たちの沈黙』『セブン』などのダークなサイコ・サスペンスがヒット。日本でも『あなただけ見えない』『沙粧妙子 最後の事件』などの連続ドラマが受けていた。
『クリスマスキス』は、「生まれ変わり」「多重人格」「超能力」といった中二心をくすぐる要素を全面に取り入れていたが、それにより「何でもアリ感」がまかり通ってしまい、ドラマとして無秩序状態になってしまったことは否めない。もっとも、そのハチャメチャぶりが醍醐味でもあったのだが……。

「犯人は一人!」じゃない!? 予測不可能な犯人当てクイズ


毎週、番組の最後に「猟奇殺人の犯人当てクイズ」が煽られていたのも思い出深い。しかも、前代未聞の賞金100万円の懸賞付きだ。
そのためか、脇を固める森本レオ、中尾彬、岡本信人、酒井敏也など、ひとクセもふたクセもある濃いメンツには、犯人フラグが立ちまくりで怪しさ全開。ただ、思わせぶりな演出に比重を置きすぎて、脚本に粗が目立ったのは本末転倒だった気がするが……。

しかも、「犯人は一人!」と散々あおっていながら、共犯者がいる結末。毎回楽しみに推理していた筆者としては、未だに納得がいかないのである。

60歳の吉行和子が演じる女学生のインパクトは絶大


この共犯者となる霊能者、「スザンヌ佐藤」を演じた岡本信人の演技がキレキレで凄まじかった。いつもの髪型に白塗りメイク、紫色のスパンコールにお姉口調。リアルに雑草をむさぼり喰いそうな怪演である。

さらに、吉行和子の演技はもはや伝説。事件の鍵となる23年前の回想シーンがたびたび描かれるのだが、そこに出てくる女学生役を当時60歳の吉行が自ら熱演。おさげ髪やウェディングドレス姿も披露し、ハスキーというよりもしわがれた声で無理矢理甲高くしゃべるのだが、若々しさは微塵も感じず……。
このドラマ、回想シーンで代役を立てないのがポリシーなのか、当時52歳の森本レオや47歳の岡本信人も大学生を演じている。誰か注意しなかったのかよ!

trfのラジオ番組やライブとのコラボも


ドラマと同時間帯のtrf(現TRF)のラジオ番組(TOKYO FM)とコラボする試みもユニークだった。
YU-KIと DJ KOOが本人役で出演。番組でハガキを読み上げたリスナー(婚約者)が次々と殺害される展開がストーリーの軸となるのだが、2人の棒演技にばかり目が行ってしまい、別の意味でハラハラさせられっぱなし。DJ KOOの見た目の怪しさだけは際立っていたが……。

ドラマ最終回はtrfの東京ドームライブが舞台。ライブで流れる『BRAND NEW TOMORROW』がそのまま主題歌になる演出はよかったが、新曲『Happening Here』が無意味に垂れ流されたり、真犯人解明後に延々と『X’mas dance wiz U』が流れるなど、ライブシーンが異常に長かったのは小室プロデュースの功罪だろうか。

不名誉な記録を残してしまったが…


主演は中嶋朋子と光GENJI解散直後の佐藤アツヒロ。『北の国から』のイメージがほぼ100%の中嶋とすでにSMAPにとって変わられた後の光GENJI。正直、メインキャストには弱く、ドラマファンが首をかしげるような荒唐無稽なストーリーではあった。
日本テレビ系『THE夜もヒッパレ』、TBS系『ブロードキャスター』、フジテレビ系『ゴールデン洋画劇場』、テレビ朝日系『土曜ワイド劇場』と、裏番組も強力だった。

それにしても、「ゴールデンタイムのドラマ史上ワーストの平均視聴率」なんて不名誉な記録を残すほどの駄作とは思えない。
筆者的にはDVD化希望No.1作品。実現の暁には、さらなる粗探しを……いや、再評価すべく、じっくり観返したいものだ。

※イメージ画像はamazonより老嬢は今日も上機嫌 (新潮文庫)