ディスクブレーキは「片押し」より「対向」キャリパーのほうが制動力が増すわけではない!

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対向キャリパーのメリットはコントロール性

自動車用のブレーキキャリパーには、大きく分けて2種類あり、ひとつは対向型キャリパー。もうひとつが、片持ち式、片押し式、浮動型などと呼ばれる、フローティングキャリパー。

主流派は、後者の片持ち式。両者の最大の違いは、ブレーキパッドを押し出すためのピストンの数。片持ち式のピストンは通常ひとつで、内側のパッドをピストンで押し出しつつ、その反力でキャリパーの爪が外側のパッドを押さえる仕組み。

長所は部品点数が少なく、安価で、軽く、省スペースで済むこと。とくにピストンが内側にしかないので、ホイールとのクリアランスが楽になるので、小型車には重宝する。

一方、対向式キャリパーは、4ポッド(ピストンが左右2つずつ)、6ポッド(左右3つずつ)と複数のピストンを用いて、パッドを両側から直接ピストンで押し出す。

長所は縦長のブレーキパッドを複数のピストンで押し出すことで、パッドが均一にローターにあたること。ローター径が大きく、パッドの面積が大きくなればなるほど、このメリットが生きてくる。ハイパワーを誇る高級スポーツカーは、この対向キャリパーを採用しているクルマが多い。

欠点は、部品点数が多く、高価で、キャリパー本体が大きくなるので重たいこと。そのためキャリパー本体はアルミ素材でできている。

一般的には、「片持ちキャリパーよりは、4ポッド、4ポッドより6ポッドの方がよく止まる」と思われがちだが、そもそもタイヤをロックさせるだけの力がキャリパーにあれば、制動力に変わりがない。制動距離はタイヤのグリップ力と、ABSの制御の優劣で決まるといっていい。

初期制動の強さも、どちらかというとパッドの摩剤の問題で、キャリパーのタイプはあまり影響しない。対向キャリパーのメリットは、パッドの扁摩耗が少なく、コントローラブルであるところ。とくに、ブレーキを抜くときのコントロール性に定評がある。

ブレーキの性能アップを狙うならまずはパッドと冷却を見直す

ただし、踏み込んだときの剛性感は、製品にもよるが、それほどアドバンテージがあるようには思えない。というのも、片持ちキャリパーは、剛性面では有利なスチール製なので、アルミ製の対向キャリパーに対し、意外と対抗できるからだ。

コストよりも性能第一のレーシングカーでは、対向キャリパーが中心だが、ひと昔前のスーパー耐久レース(ブレーキキャリパーは市販車のままで交換不可)では、NSX、S2000などが、純正の片持ちキャリパーのブレーキに、スリックタイヤを履いて、24時間レースなどにも参戦していたので、必ずしもサーキット=対向キャリパーが不可欠というわけでもない。

ブレーキの効きには定評があるBMW各車も、片持ちキャリパーだったりする。大事なのはブレーキバランス。ブレーキの利きに不満がある人は、高価なアフターパーツの対抗ピストンに交換する前に、冷却用のエアダクトをつけたり、パッドをチョイスする方がいいのではないだろうか。

たしかに、見た目は対向キャリパーにはかなわないが、変に他車種用に開発された大容量の対向キャリパーを流用しても、ブレーキバランスが崩れたりして、パフォーマンスアップにつながらないこともあるので、気を付けよう。

(文:藤田竜太)