発泡酒(写真は「淡麗」)

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1994年、サントリーからひとつの商品が発売された。
その名は、「ホップス」。ビールに近いがビールではない。発泡酒である。

「ホップス」のヒット 酒税法が改定に


発売当時の酒税法では、「ビール」に分類されるのは、麦芽の使用率67%以上のものとされていた。つまり、それ以下のものは「ビール」としての酒税がかからない。そこに目をつけ登場したもので、当時350ml缶のビールが220円前後だった時代に180円という低価格を実現した画期的な商品だった。
バブル崩壊後の不景気のなか、比較的低価格だった輸入ビールが人気を集め、国内産ビールの売り上げが伸び悩んでいたことも、その背景にある。

菅原文太が「これが幸せっちゅうもんよ」とうまそうに飲み干すCMも印象深かったが、こういった商品で大切なのは、いかに「ビールっぽい味」に近づけるかというところ。「ビールのパチモン」と思われてはならない。しかしホップスは、ちゃんと美味しかった。そして、安かった。
ホップスのヒットが引き金となり、他メーカーも追従。そもそも「発泡酒」というカテゴリーには、ビール系以外の発泡アルコール飲料も含まれるのだが、「発泡酒」といえばビール系飲料、となるほどの存在になった。

しかし、ヒットしすぎたことが災いしたのだろうか(?)、政府は麦芽率50%以上のものまでをビールと定めると、今度は税率の基準を変更した。ホップス、アウト。ホップスはビールということになった。これに対し、サントリーも麦芽率を低くした商品、「スーパーホップス」を発売するなどで対応し、市場の充実をはかってきた。

発泡酒市場に参入したキリン


1998年、発泡酒市場に参入していなかったキリンが、ついに動き出す。
「麒麟淡麗」の登場である。
「♪ボ〜〜ラ〜レ」といった、ジプシーキングスの軽快な音楽と、先行商品よりもさらにビールに近づいた味わいも受け、現在も発泡酒売り上げナンバーワンの座を長年守り続ける大ヒット商品となった。
もはや“タンレイ”というと、「容姿端麗」の「端麗」よりも、このキリンの“淡い”の字のほうを思い浮かべてしまう人も多いのではないだろうか。

2000年代に入ると、さらに酒税法が改正され、発泡酒の税率が引き上げられることになった。
そこに各メーカーが工夫をこらし、別のアルコール飲料とミックスしたり、麦芽以外の原料で製造したりする、いわゆる「第三のビール」と呼ばれるカテゴリーの商品が続々登場。100円代前半という定価格で購入できるこれらは、デフレ時代も追い風となり、「のどごし」、「ドラフトワン」、「金麦」など現在に続く多くのヒット商品も登場、主流はこちらのジャンルに移った。

多くの選択肢が生まれた現在のビール市場


「第三のビール」登場以降、キリン「淡麗」など一部の人気商品をのぞき、発泡酒は次第に市場を縮小しているようだが、現在も、ゼロカロリーやプリン体オフなど、世の中のニーズに合わせた新商品、新ブランドが次々投入されてもいる。
いっぽう、サントリーの「プレミアムモルツ」を筆頭にした、普通のビールよりも数十円高い価格のプレミアム系ビールの人気も定着。ゼロ年代以降は、ウィークデーは手ごろな発泡酒や第三のビール。そして週末にじっくりと、高級ビールをという、二極化を楽しむスタイルも生まれた。

いろんなカテゴリー別に、さまざまな選択肢で楽しむことができるのは、ビール系の発泡酒の登場があったからこそ。
そんな意味では、酒税法の改定が生んだ楽しみだといえたりするかもしれない。
(太田サトル)