「よなよなエール」など、変わったネーミングにユニークなデザインを施した缶ビールを販売している、ヤッホーブルーイングという会社をご存じだろうか。ヤッホーブルーイングは、11年連続で増収増益を達成。楽天市場の約4万店舗の中から選ばれる「ショップ・オブ・ザ・イヤー」では、毎年受賞しているほどの人気店舗だ。
私がはじめて「よなよなエール」に出会ったのは、コンビニだったと記憶している。目を引くネーミングと、他社のビールとは雰囲気が異なる缶のデザイン、そして少し高めの金額が気になって1本だけ購入してみた。それ以降、「よなよなエール」が私のご褒美になっている。

そんな、なにか特別な気持ちにさせてくれるビールを販売しているヤッホーブルーイングの井手直行社長が、『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります くだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話』という書籍を出版した。


同社の通販サイト「よなよなの里」では、井手社長が「てんちょ」というニックネームでファンに愛されている。本書の編集担当である東洋経済新報社の水野さんも、井手社長にはじめてお会いしたときに、ひと目でそのキャラクターに惚れ込んでしまったのだという。
実は私も、ショップ・オブ・ザ・イヤーの授賞式にてUFOをまとった全身銀色の井手社長と“未知との遭遇”……いや、お会いしたことがある。会場でとりわけ異彩をはなつその姿に、一瞬圧倒されてしまったが、勇気を持ってファンであることを告げると、「ありがとうございます!」と、よなよなエールをいただいた。とても嬉しかったし、井手社長の人柄にふれて、一層よなよなファンになってしまった。

今でこそ経営は順風満帆な井手氏率いるヤッホーブルーイングだが、実は赤字経営が続いていた過去を持つという。当時のエピソードが本書に掲載されている。

会社の設立当初は地ビールブームが来ていたこともあり、製造が追いつかないほど順調だったヤッホーブルーイングだったが、ブームが去ってしまうと流通・小売り業者に「売れてないね、厳しいよ……」と言われてしまい、出荷できないまま醸造所の倉庫に在庫があふれてしまった。
酒造メーカーは、お酒を醸造すると国に酒税を支払う必要がある。ただし、売れずに廃棄した場合には、支払った酒税が戻ってくるため、井手社長たちは売れ残ったビールを排水溝へ流す日々が続いたそうだ。このような悲惨な状況から、ヤッホーブルーイングは前年比40%増まで売上を伸ばした。井手社長は何を変えたのだろうか?

「ヤッホーブルーイングの製品は、口コミが広がるネーミングや販売戦略が話題になっていますが、仕事を楽しんでいる集団、自分が最も得意なことを仕事にする集団の強さに興味を持ちました」

水野さんが語るように、ヤッホーブルーイングには面白い方針がある。まず、全員がニックネームで呼び合っている。先述のとおり井手社長は「てんちょ」と呼ばれ、従業員は「マリリン」「ハラケン」などと呼び合っているそうだ。
また、部署名もユニークで、広報担当が「よなよなエール広め隊」、人事・総務は「ヤッホー盛り上げ隊」、物流部署は「ハッピーお届け隊」など、井手社長の「働く人同士の距離を縮めたい」「自分たちの使命を理解した上で働けるように」という思いが込められている。

本書では、他にもさまざまな「くだらないけど面白い戦略」を紹介しており、一見、それはクレイジーな手法に見えるが、結果的によなよなエールも、ヤッホーブルーイングも、たくさんの人に愛されるようになった。それは、「ビールで世界を幸せにしたい!」「お客様にもっと喜んでいただきたい!」という思いから生まれた行動の結果なのだ。

「その思いが伝わり、ファンも製品を勧める『伝道師』となっています。しかも、ファンだけでなく、販売店さんも伝道師になって喜んで販売しています。この本も、井手社長の熱意を伝えることで、自分の得意なことを仕事にして、とことん楽しもうと思ってもらえる、読者をチームビルディングする本にしようと話しました」

なお、本書を読み始めると、小口によなよなエールの缶が描かれているのがみえるが、読み終わると……。また、カバーをめくってみると……など、いろいろなところに見つけたファンが喜ぶような工夫がしてある。



「カバーや本文のデザインは、「もしドラ」「ビリギャル」などのミリオンセラー本のカバーを制作したデジカルにお願いしました。イラストを描かれたデザイナーの森野哲郎さんは、ヤッホーブルーイングの伝道師(熱狂的なファン)で、ヤッホーTシャツなどのイラストを描いている方です」

もし、どう仕事に向き合っていったらいいかわからなくなったときは、本書を読んでみるとよいと思う。よい意味でクレイジーになることで、仕事はいかようにも面白くできることが伝わってくるだろう。
(平野芙美/eBookJapan)