人気のYouTuberは「Hikakin」や「はじめしゃちょー」だけではない。ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが、いま話題のYouTuberを解説します。


飯田 ファン以外は知らない人気YouTuberの世界を紹介していく企画ですが、今回取り上げるのはワタナベマホト。マイルドヤンキー的なYouTuberですね。下ネタが多くて、基本的に品がない。仲間とつるんで、いじりまくる。で、「高校中退で実は……」的なドラマもある。

藤田 マホトさんの一番再生数の多い動画(698万回再生)は、女子高生に、ゴキブリを落とすというドッキリをして泣かせるというものでしたね。



飯田 ひどいよねw マホトと比較すると、はじめしゃちょーは品があるわけです。ジェントルですよ。国立大学卒業の知性を感じる。それに対してマホトは剥き出しの中卒感。学歴差別してるわけじゃないですよ。僕の友達にも、中学から不登校で中卒のまま実家の左官屋を継いでるやつもいますけど、そいつもめっちゃおもしろくて、大好きですから。

藤田 風呂系が多いのと、敷き詰め系が多いって点では、はじめしゃちょーと似てますよw
 編集とカメラは、マホトさんの方が甘い。それがリアリティを生んでいる部分もありますね。あと、女性が結構出てくるのが違う。

飯田 そうね。マホトは中高生に人気なわけですが、これってつまり、マスメディアにはフィルタリングされて出てこなかった(出られなかった)、地元のやんちゃでおもしろいやつがYouTubeの力で全国区化してしまったということだろうなと。彼を見ていると「あー、中高時代いたな、こういうやつ」って思うんですよ。別にイケメンでもないけど人気。ガチの不良じゃなくて、ちょっとだけ悪いというか、おふざけがすぎる。勉強はできないけど人当たりはよくて、だらだらダベってるだけでもなんか楽しいやつ。

藤田 ガチの「悪人」とか「不良」というほどではないと思うんですよ。80〜90年代のドッキリとかよりは、かわいいレベル。だけれど、日常を舞台にしているから、そこはちょっと面白い。個人的には、1000円自販機のシリーズは結構好きですね、くだらないけど、確かに興味あったw



 『探偵!ナイトスクープ』みたいな。視聴者からのくだらない疑問に答えて、色々試してみる系のやつ。『トリビアの泉』の一部でそういうコーナーもあったかな。

飯田 悪いっていうか「頭が悪い」んだよね、良い意味で。「ばかだなー」ってほほえましくなる感じ。学歴よりも人心掌握術とすら言える重要な昨今では、こういうタイプがうけるのはわかる。ただ今でもテレビに出ているひとは何重ものチェックを経て選ばれて出ているわけで、マホトみたいなタイプの人間が、特定のそのひとが住んでいる町の外側のひとにまで有名になるというのが、すごい時代になったと思う。

藤田 使っているフォントのダサさというか、絶妙な感じとか、どこまで狙っているんでしょうねw

飯田 あれは精神科医の斎藤環が言う意味でのヤンキー感があるよね。バッドセンスというか「盛る」感じ?

藤田 ぼくはスポーツ新聞の色味だなと思っているんだけどw

飯田 あー、たしかに。マホトがどんくらい人気かというと、Twitterに「USJで遊んでる」みたいなことを書いたらファンが出入り口に出待ちにわらわら来ちゃった的なエピソードがあります。

藤田 そんなに!? ところで、マイルドヤンキー的で、頭が悪い、とこれだと悪口しか言ってない感じなのでw 人柄の特徴とかも、教えてください。

飯田 すごくシリアスに「実はオレは……」って語ってる動画あるでしょ。



藤田 語っている系、ありますね。

飯田 ああいうのと、ふだんおばかなことやっていることの組み合わせだと思うんですよ、日本人が弱いのは。芸人が深イイ話するのと同じで。
 あとファンは動画に出てくる人間同士の関係も含めて楽しんでいるようで。はじめしゃちょーに比べて、仲間とつるむ動画が目立ちません?

マホトも国際的な賞を取る? 『水曜どうでしょう』と似ている


藤田 ありますね。そのノリで思い出したんですが、大泉洋さんがドラマで人気で、主演した『アイアムアヒーロー』が世界的な映画賞を受賞しているじゃないですか。彼は『水曜どうでしょう』でブレイクしたわけですが、その初期や前進の番組の『モザイクな夜』ってのがありまして、そこではなんか、くだらない企画を色々立てて色々やってく感じのノリで。それを思い出したんです。
 ぼくはリアルタイムで観ていたんだけど、地方のローカル局でわけのわかんないことやっているのが超面白くて、しかもほぼ素人ですよ。それに似ているんですよ。「自分たちしか知らないんだろう」感とかも。無数のアホな企画を乱発していく熱気とか、スタッフと演者の人間関係とかも重要であるところとか。

飯田 なるほど。そうかも。たださすがにマホトがやってる「勃起選手権」とかはさすがにローカル局でもできないだろうけど……。



藤田 いや、あのぐらいならできますよw
 大泉さんが人気俳優になって、世界的に評価されている現在、YouTuberが将来、大物になるといわれても、驚きませんw

飯田 すでにHIKAKINはボイスパフォーマーとしてスティーヴン・タイラーと共演してるよ!
 あとジャーニーの今のボーカルってフィリピン人なんだけどYouTubeにカラオケアップしてたら「脱退したボーカルにそっくりじゃん!」って発見されて起用されたんだよね。YouTube出身の有名人は世界的にはもうたくさんいる。ジャスティン・ビーバーだって元々はそうだし。
 そういうのがいる一方での、マホトの動画の男子寮感というか、地方都市の男衆の家飲み感ダダ漏れっぷりがあると。

藤田 あれは炎上しないで、むしろ女性の人気が高いんですよね? 「ホモソーシャルだ!」とか言われないもんなんですかねw

飯田 「ホモソーシャル」などという言葉を知らない層がファンだと思います。男の人気もあるし。ある意味で日本のストリート感があると思う。特になんもないストリート。地方都市感。だから、都市民俗学とか文化人類学とか社会学的に注目されていいと思います、こういうタイプのYouTuberは。会話分析とかまじめにするひとが出てきてほしいですね。
 限りなくローカルに閉じているはずなんだけど、それによって日本全国に通じてしまう。世界には行かないけど、日本の若者には届く微妙な空気感。

藤田 なるほど。メジャーになっていないからこそ、あるいはくだらないものと思われているからこそ、ある程度自由が保てている状態なのかもしれないですね。
 観ている人たちは、自分たちと地繋がりの感じで見ているんですかねぇ? 部屋と部屋が繋がっている感じとか。自分たちの周りと似ているなぁ、って感じなんですかねぇ? それとも、全然切り離されたスターっていう感じ?

飯田 「俺らと似てる!」(でもすごい!)感で見ているのでは。ウェブの特徴だけど、今まではメディアの送り手と受け手が同じようなソーシャル・キャピタル(社会関係資本)、階層であることってあんまなかったわけですよ。アホが観ているテレビ番組でも学歴的にエリートな人間がプロデューサーにいたりするのが普通だった。でもウェブでは簡単に同じ階層、同じ趣味嗜好のひと同士がマッチングしちゃう。だからマホトの動画も数十万回再生、平気でいく。

YouTuberも人間力の競争社会!


藤田 そうなると、人気が出る人と、出ない人の差って、どういうところにあるってことになります?

飯田 有名どころの人はやっぱ見やすいし、キャラも立ってるし、カラダ張るとかのリスクも取ってるよね。底辺YouTuberは動画として見づらいし、地味で声も出てないし、企画はパクリだし、キャラも立ってない。
 最終的には……人間力でしょう(真顔)。

藤田 就職活動でも人間力を要求され、YouTuberになるにも人間力を要求され、ある意味で夢があるんだかないんだかわかりませんねw

飯田 世知辛いですね。

藤田 『地域アート』でも書いたのですが、アーティストも、人間力の時代になっている部分があるので、社会全体の変化が反映されているのでしょうね。
 こんな世界で生きていくためには、人間力がないやつはどうしたらいいのやらw 職人とか、技術者とか、研究者とか、芸術家とか、人間力がなくてもなんとか社会に役に立つことができる職業があったはずなんですが、だんだんその辺もなくなっていったり、人間力が必要になってきていて。

飯田 プレゼン力とコミュ力ばかりが求められるのはほんとどうかと思います。昔は「対応が杓子定規でサービス精神ゼロ」の代名詞だった市役所の窓口すら愛想のいい時代だもの、今は。

藤田 役所のサービスがいいのは、ぼくはありがたいけどw 派遣だったりするんで、ちょっと心苦しい部分もありますけどね。
 何はともあれ、この講座も二回目ですが、YouTuberは意外とぼくは抵抗がないことがわかりました。今のところ、お笑い系の人ばかりだからかもしれません。

飯田 YouTuberが小中学生に人気があって「なりたい」と言わせる力があるのは、マホトみたいに中卒でも食っていけるんだ! 「レールから外れた人生になっても最悪なんとかなる」(かもしれない)という道を示しているからじゃないかと思うんですよね。「自由に生きたい」というのは人間の根源的な欲求ですから。

藤田 そういう道の可能性を示すのは重要なことです。一方で、みんなが夢を見て、目指したら、単価が下がって食い物にされやすくなるけれど、多様な生き方の選択肢がありうると思うこと自体は大事ですよね。