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大手旅行会社のJTBが、ふるさと納税に関連する事業を拡大させている。同社は2014年からふるさと納税の情報サイト「ふるぽ」を運営しているが、これに加えて先月には、全国1788自治体のふるさと納税に関する情報を掲載するウェブサイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクとの業務提携を発表。今後同社は様々な協業を予定し、また同社のマーケティング戦略においてふるさと納税関連事業がどのような位置づけにあるのか。今回の協業の責任者であるJTB西日本 ふるさと納税事業推進室 室長の西田匡志氏にお話を伺った。

○体験型の返礼品を生み出すことで、地方への人口流入を増やす

ふるさと納税は、希望する地方自治体を選んで寄付を行うと、寄付額の一部が所得税、住民税から控除できるほか、返礼品として寄付先の自治体から特産品などをもらうことができるという仕組みだ。総務省がまとめたデータによると、2014年は利用者数13万人、寄付総額142億円と利用者が急増している。返礼品には地元で生産された食品にとどまらず、地元の工場で生産されたパソコンなど高価な返礼品も増加傾向にあり、そのお得感から注目が年々高まっているのが現状だ。

ただ、こうした返礼品の大部分を占めるは“モノ”であり、旅行やアクティビティといった体験型の返礼品はわずか1%しかないのが現状。ふるさと納税が拡大しても地方への人口流入に直接的な効果が期待できないという課題がある。地方自治体にとっては、寄付の増加によって税収は確保できても、街に人が集まらないのだ。

西田氏によると、今回JTBとトラストバンクが協業するポイントのひとつは、こうした課題にあるのだという。「地方自治体からは、地産品に注目してもらいたいというニーズのみならず、“わが町に来てほしい”というニーズは高い。今回の協業では、トラストバンクや地方自治体と共同で、ふるさと納税の返礼品としてオリジナルの旅行商品や地域限定の旅行クーポンなどを企画・開発していきたい」と西田氏は語る。具体的には、既に「ふるさとチョイス」では多数の自治体で旅行商品やクーポンを返礼品として掲載しているほか、今後は同社が法人向けに提供しているパックツアー「地恵(ちえ)のたび」を、地方の魅力を再発見する旅行商品として消費者向けに展開していきたいとしている。

確かに、食品をはじめとした“モノ”の返礼品は、受け取って消費すればそれで終わり。寄付先の地方自治体との関係もそこで途切れてしまう。しかし、寄付先である地域を旅するという返礼品であれば、旅行の中で生まれる消費から様々な経済効果が生まれ、また地域の魅力に触れることでエンゲージメントが生まれ、長く関係を築いてくれるファンを醸成することが可能になる。ふるさと納税の税収額以上の効果が期待できる。JTBの狙いは、ふるさと納税の返礼品をきっかけに、日本国内の移動人口を増加させることで地域を活性化させることなのだ。

西田氏によると、今後は返礼品としての旅行商品開発だけでなく、ふるさと納税の利用促進を目的として、都市部のJTB店舗にふるさと納税の窓口を設置するなど店舗ネットワークの活用を進めていくほか、寄付先となる地方自治体には、ふるさと納税で生まれた税収の使い道として地域活性化に繋がる企画の提案などを行っていくという。

○地方の魅力を再発見することで、プロダクトマーケティングに付加価値が生まれる

では、JTBは今回のふるさと納税事業を同社のマーケティング戦略の中でどのように位置付けているのだろうか。西田氏はこの点について、「地域の持つ付加価値を伝えていくことは、旅行会社の使命。ふるさと納税事業を通じて地方自治体と深く繋がっていくことで、これまでにない付加価値を持つ魅力的な旅行商品を開発できるのではないか」と期待を語る。競争が厳しい旅行業界にとって、付加価値のある旅行商品を生み出すことによる差別化、競争力の強化は大きな命題だ。ふるさと納税事業から得られた知見をプロダクトマーケティングに活かすことによって他社にはできない旅行商品の企画ができるというのだ。

同社のこうした姿勢は、今回のふるさと納税事業が最初ではない。同社は地方の人々と共同で地域の魅力を再発見し、旅行商品の開発やイベント企画などによって地方への人口流入を増加させることで地域経済を活性化させるというDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)戦略を掲げており、ここにふるさと納税事業を加えることで国内旅行のさらなる活性化を目指している。西田氏は、「都市部や人気観光地と比べて地方には賑わいがなくホテルの稼働率も悪い。しかし、行ってみることで気付く魅力、行かないとわからない魅力はたくさんある。ふるさと納税がこうした地方の知られざる魅力に気づいてもらうきっかけになれば」と語る。

企業のマーケティング活動にとって、消費の前提となる興味関心を喚起したり、文化を醸成したりすること、そして高まった興味関心に応える商品を開発することは、商品やサービスを売り込むこと以上に重要なことだ。JTBがふるさと納税事業を通じて目指しているのは、体験型返礼品の拡大を通じて日本国内に眠る様々な未知の魅力への興味を喚起し、その関心に応える商品を開発すること。都市部や人気観光地といった既存の旅行市場とは異なる、新たな市場を生み出すための挑戦だと言えるだろう。

(井口裕右)