人民日報系のニュースサイト、人民網は15日、清華大学国際関係研究院の劉江永教授による「米国が釣魚島(尖閣諸島の中国側通称)争議において、日本に肩入れする背景と原因」と題する論文の概略を紹介した。(イメージ写真提供:123RF)

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 人民日報系のニュースサイト、人民網は15日、清華大学国際関係研究院の劉江永教授による「米国が釣魚島(尖閣諸島の中国側通称)争議において、日本に肩入れする背景と原因」と題する論文の概略を紹介した。

 同論文は学術誌「日本学刊」の2016年第1期号に掲載された。劉教授の尖閣諸島の領有権についての主張は、「本来は中国の領土であり、日本は日清戦争に乗じて奪い取った」、「第2次世界大戦終結時に、日本は中国に返還すべきだった」と、中国政府の見解と同一だ。

 劉教授は同問題についての米国の姿勢について、背景として「米国が近代には帝国主義列強の1つだった」ことを挙げた。さらに、「8カ国連合軍として中国に侵入した。スペイン戦争によりフィリピンの植民統治を行った」と指摘し、米国の尖閣諸島に対する姿勢は、「日本が1874年に台湾に侵入し、琉球を併合」した時に始まったと主張した。

 つまり、米国は自らが帝国主義国家だったので、他国の「侵略行為」も、自国に害のないかぎり容認したとの見方だ。

 劉教授はさらに、米国は冷戦期だった1971年に、「勝手に釣魚島を琉球諸島と一緒に日本に返還した」と論じた。劉教授によると尖閣諸島を琉球諸島の一部とするのは「誤った情報」であり、米国の為政者が「誤った情報」にもとづく決定を行ったことが、「ボタンの掛け違い」の始まりだったという。

 さらに、1996年に尖閣諸島の問題が激化し始めた際に米議会の作成した(日本側の主張を認める)同問題についてのリポートも「史実と国際法理に著しく反して」おり、その後の米国政府の政策決定に悪影響を及ぼしたという。

 劉教授は、尖閣諸島の久場島と大正島について「米国が1950年代から不法にも(訓練用の)射爆撃場にしている」と指摘。「このような米中関係に害をもたらす歴史的な錯誤という負担を徹底的に放棄しないと、日本の冒険的右翼政治勢力が在日米軍を中国と対抗するための『人質』にしてしまうことも、避けがたいだろう」と主張したという。

 同部分は、人民網編集者が劉教授の論旨を大きく割愛して紹介した可能性もありが、いずれにせよ意味は不明だ。

 劉教授は、日本政府が尖閣諸島の一部の島を国有化(国有地化)したことにも触れた。2009年に誕生した民主党・鳩山内閣が、沖縄の基地移転問題で米国と交渉する意向を示したり、鳩山由紀夫首相の盟友だった小沢一郎氏が同年12月に、多くの国会議員を率いて訪中したことで、米国は「日本が中国に接近して、東アジアを支配する米国の地位を脅かすのでは」との懸念するようになったと主張。

 劉教授は、尖閣諸島の問題が激化したのは、米国の「謀略」との見方を示した。日中が接近しないよう、尖閣諸島問題という「日中間の矛盾を利用し、日本を中国に挑戦するように仕向けた」と主張した。

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◆解説◆
 上記の主張には、「論理の穴」を散見することができる。その1つが久場島と大正島の問題だ。中華民国は第二次世界大戦の戦勝国だった。中華人民共和国は中華民国の「後継国家」であり、中華民国の「財産」を引き継ぐことができる。

 米軍が久場島と大正島の排他的占有を続けていたのに、中華民国も中華人民共和国も抗議をしていない。つまり、久場島と大正島を「自国領」と認めていたのなら、「戦勝国でありながら、同じ戦勝国に領土を取られて放置していた」という、極めて奇妙なことになる。つまり、「自国領としての意識はなかった」と言わざるをえない。

 中国当局は、尖閣諸島が自国領であると強く主張しつづけている。日本政府(野田政権)が2012年に魚釣島と北小島、南小島を国有地化したことに対しては、特に激しく非難しつづけている。しかし久場島と大正島を米軍が管理、つまり事実上の「米国国有地」であることには言及しない。いったん言及すれば、尖閣問題について「米国を本当に敵に回す」ことを恐れているからと考えられる。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)