イラン戦の延長後半に中島が2ゴールを挙げて試合を決める。手倉森監督とハイタッチを交わした。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

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 延長戦の末にイランを3-0で下したリオ五輪アジア最終予選・準々決勝のロッカールーム。選手たちは香川真司のチャント(応援歌)を合唱しながら、はしゃいでいた。
 
 正確に言えば、香川真司のチャントのメロディーに乗せられていたのは、別の選手の名前だった。
 
 値千金の先制ゴールを決めた豊川雄太、2ゴールを奪って勝負を決定づけた中島翔哉、好セーブを連発したGK櫛引政敏と並んで、この試合の殊勲者のひとり、室屋成が言う。
「『おおーかがわしんじー』ってあるじゃないですか。僕の大学の応援歌がそれで、『せいむろやー』みたいな。それをなぜかみんなが歌っていました(笑)」
 
 その光景を微笑ましく見つめていたキャプテンの遠藤航も言う。
「試合後のロッカールームの雰囲気は、これまでで一番良かったですね」
 
 近年、日本サッカーにおいて鬼門となっていた準々決勝の壁をぶち破った。それも、先発の選手たちが我慢強く耐え凌ぎ、途中から出場した選手が大仕事をやってのけたのだから、ロッカールームでの興奮が最高潮に達するのも当然だ。
 
 ここまで勝ち上がってきたから雰囲気が最高なのは当然のことだが、一方で、大会に入る前から雰囲気が良かったから、ここまで勝ち上がれてきたという側面もある。遠藤が再び証言する。
「12月のカタール・UAE遠征や石垣島キャンプの頃からみんな最終予選に向けて良い準備ができていたし、その時から練習で声が出るようになって、雰囲気が良くなってきたと感じていたので、準備の段階からまとまった雰囲気作りができていたと思います」
 
 その12月のカタール・UAE遠征では、イエメン、ウズベキスタンと対戦したが、いずれもスコアレスドローと引き分けてしまった。15年下半期に行なわれたJクラブや大学との練習試合でも0-0や1-1、0-1といったスコアが並んだため、「得点力不足」を指摘されていたが、裏を返せば、チームの立ち上げ以来、「柔軟性と割り切り」「取れなくても、取られるな」といったコンセプトのもと、手倉森誠監督によって植え付けられてきた「粘り強い守備」はすでに身に付いていた。
 
 さらに、12月のウズベキスタン戦では多くのチャンスを作ってもいた。その試合後、遠藤はこう言って悔しがったものだった。
「声は出てきたし、守備は安定しているし、チャンスもたくさん作れてきた。あとは本当に決めるだけというところまで来ていると思う……」
 
 その「決めるだけ」の部分が、最終予選に入っていよいよ現実のものとなってきた。ブレイクスルーの瞬間は、近づいていたのだ。
 
 得点が奪えるようになった理由のひとつは、カタール・UAE遠征にはいなかった久保裕也、南野拓実、浅野拓磨、豊川雄太といったアタッカーの合流だ。
 
 そのなかで今大会において実際にゴールを奪ったのは、久保と豊川のふたりだが、久保がいなければ、鈴木はエースの重圧をひとりで背負うことになっていたし、タイとの2戦目で鈴木がゴールを奪えたのは、その直前まで浅野と豊川が決定的なシュートを放ち、マークが分散していたおかげでもあっただろう(とはいえ、鈴木のゴールは素晴らしかったが)。
 
 また、タイ戦でゴールを決めた矢島慎也が「拓実は本当に巧い。見習うところは多いけど、負けたくはない」と言ったように、南野の存在が矢島のハートに火を付けた面もあったはずだ。
 
 浅野や豊川らスーパーサブの存在は、ゲームの進め方にも大きな影響を与えている。彼らが控えているからこそ、先発の選手たちは劣勢を強いられても相手の運動量が落ちるまで我慢ができる。そこまで耐えれば、彼らが決めてくれるという信頼があるからだ。