野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

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以前メルマガで市況、景況、為替などの動向について日本でも今までよりバイヤーの視点を重視する方向に向かいつつある、ということを述べています。また市況や景況に関する購買実務担当者視点の見方をレポートにして発表する、ということも書かせていただきました。

http://www.insightnow.jp/article/8705

レポート名ですが「VoPM(Voice of Purchasing Manager)レポート」というレポートとして発行する予定です。数人の調達購買マネジャーを集め、その討議をレポートにする正に購買調達マネジャーの現場視点の声でしょう。

先日第一回目のVoPMレポートのディスカッションを行いました。
詳細は年内にレポートとして掲載いたしますがとても興味深くて多くの発見がある貴重な機会になっています。
中でも目からウロコだったのは「素材は必ずしもコモディティではない」ということです。

原材料市況の変動因子は様々あるでしょう。中でも大きな変動要因は需給バランス。需給バランスで各品目毎に注意しておかなければならないのは供給側の動向です。原油、ナフサであれば産油国側の政情などですし、アルミなどは資源メジャーの動向。原材料毎にこれらの供給元の事情や構造、持っている力が異なりますのでこれを抑えておく必要があります。これに加えて投機的な動きと為替動向などが主要な変動因子と
して上げられるでしょう。
投機的な動きについてはなかなか予測はとても難しいのですが、リーマンショック直前の原材料市況の高騰などは投機的な動きが市況の大幅な高騰につながったと言われています。為替動向は最近は市況変動のバッファーとなっているようです。足元の原材料市況下降局面では昨今の円安傾向が、一時期の市況高騰時には円高傾向が一種のバッファーとなっているのです。為替は経済のファンダメンタルズや期待、各国の政策が
変動因子として加わる訳でその見方はより複雑になるでしょう。

このように考えると投機以外の大きな変動因子は大概の各原材料とも共通している訳ですから、原材料市況は多少の違いはあれその動きに大きな違いはない、と考えられます。しかし、各品目の市況の動きは均一ではありません。
一番違うのは需給バランスです。需給バランスは市場構造においてどこをその品目の市場範囲と見るか、によって変わってきます。またこの市場範囲の定義により需給バランスには大きな違いが出てくるのです。
ナフサは原油価格とリンクしており、グローバルで需給バランスを考えなければなりません。グローバルで市場を捉え、供給側の状況を見ることが求められます。例えば産油国の政情不安、これは高騰につながる要因です。また一方で米国のシェールオイル産油量が増えていることは市場構造が変化していることであり、市況決定権におけるOPECの力が相対的に低くなっていることも想定しなければなりません。需要側の要因としては中国経済の減速が大きな影響を与えます。
アルミも同様にグローバルでの需給バランスを考えなければなりません。アルミは資源メジャーが供給を絞る方向にあり、中国経済の減速に対して生産調整が進むため思ったほど下落はしないのではないか、という議論も聞かれました。このように品目毎に市場構造が異なり、多くのコモディティはグローバルでの需給状況を見なければならない品目です。

一方で鉄やステンレスなどの需給バランスの決定要因はあくまでも日本市場での範囲で捉えるべき品目です。これは日本企業の生産品目に競争力があるため、コモディティ化していないことによります。中国産のステンレスは錆びるし、中国産の鉄は板厚が安定していない、これは今も変わりません。日本の企業は日本メーカーの原材料を購入せざるを得ない状況なのです。ですから、これらの品目は日本市場での需給バランスや市場構造を前提に考える必要があります。日本市場での川上産業は大手企業の寡占状況です。
売り手が強いマーケットとも言えます。これらの品目は原材料の市況動向等の影響を受けつつも市況動向は比較的安定しているでしょう。中国経済の影響も他のグローバル資材程には受けずに、コモディティ化しているグローバル資材に比して変動は大きくないと言えます。

このように原材料と言ってもそれぞれの市場構造や品目の特徴、コモディティ化の程度により市況動向や価格の変動因子は変わってくるのです。変動因子が変わればもちろん各企業のバイヤーの取るべき行動も変わってきます。コモディティ化しているナフサなどは市況変動を理解した上で、プレミアムと言われるような固定部分の交渉を如何に進めるかが重要なポイントになります。また、何をどこからいくらで、だけでなく、いつ買うか、どれくらい買うか、というのも重要な判断業務となってくるでしょう。
鉄やステンレスなどは国内における大手の需給家の価格決定情報を踏まえて適正な価格決定ができるかどうか、が求められますし、買い手としての魅力度を高めることが求められます。

このように各品目毎に価格予測の手法や変動因子も様々ですが、共通して言えることは市況や景況をウォッチしタイムリーに情報を入手すること、その情報を元に適切な分析をすること、また判断をすること、経営や社内に対し付加価値のある情報提供をおこなうこと、このような機能が調達購買部門には今後一層求められていく、ということです。