政府が低所得の高齢者に3万円支給へ…貧困の拡大が年金制度に与える影響とは

写真拡大

政府が2015年度の補正予算案において、低所得の年金受給者を対象に1人あたり3万円の給付金を配る方針を固めました。政府は、「給付金を支給することで低所得の高齢者の家計を支援し、個人消費の底上げを狙う」としていますが、現金による単発の給付に対しては、参院選を前にした安倍政権による「バラマキ」との批判も出ています。ちなみに、今回の給付金の対象は約1000万人とみられており、財源は約3000億円になる見込みとのことです。

生活に困窮する高齢者が増加


こうした対策を政府が打ち出す背景にあるとみられるのが、十分な収入や貯蓄がなく、生活に困窮する高齢者の増加です。この問題を取り上げたNHKスペシャル『老人漂流社会 “老後破産”の現実』によれば、2014年の時点で独り暮らしの高齢者は600万人に迫る勢いで急増しており、その半数である約300万人が生活保護水準以下の年金収入で暮らすことを余儀なくされているとのことです。

近年、国内における貧困層の拡大が問題となっていますが、高齢になって経済的に困窮する人が続出する理由のひとつに、「公的年金がセーフティネットとして十分に機能していない」ことがあげられます。

日本の年金制度は低評価?


日本においては、すべての国民が公的年金に加入し、老後には年金を受け取れる「国民皆年金」の制度が運用されているのは周知の事実ですね。しかし、世界最大級の人事・組織コンサルティング会社であるマーサーが毎年発表している「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング」(2015年度版)によると、日本の年金制度は25か国中で23位と低評価。これは、日本における年金支給額が現役世代の年収と比べて低すぎることや、制度の持続性が懸念されることなどによるものです。

一方、今後日本の年金制度で大きな問題となってくると予想されるのが、「年金を支払っていない人は、あらゆる年金を受け取れない」という点です。これは、一見すると当たり前のことのように思われますが、非正規雇用やワーキングプアなどで低所得となっている若年・中年層は、会社員・公務員が加入する厚生年金への加入はもちろんのこと、支払う余裕がないため国民年金などの基礎年金ももらえない可能性が高くなります。

さらに、若年層における貧困の拡大により、かつての「老後は子どもに面倒をみてもらう」という常識は通用しなくなり、「いつまでも経済面で子どもに頼られる」年金暮らしの高齢者も増加しています。また、若い世代では、高齢化が進む社会における年金制度への不安から、「自分たちはどうせもらえない」というムードも蔓延しており、こうした理由から公的年金を支払わない人も出てきているのが現状です。

結局のところ、年金制度や高齢者の貧困にまつわる問題を解決するためには、雇用や最低賃金の問題を含め、社会全体における貧困層の拡大にどう対処するかということが重要になってきます。今回の3万円という給付金については、それが1回限りの「バラマキ」と批判される政策であったとしても、こうした「目の前のお金」を切実に必要としている人が増加していることが、社会にとって最大の問題といえるでしょう。

<参考>
http://ovo.kyodo.co.jp/ch/mame/a-635913
(日本の年金制度は世界ランキング何位か知ってる? OVO)
http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009050277_00000
(NHKスペシャル『老人漂流社会 “老後破産”の現実』)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei01/
(公的年金制度の概要 厚生労働省)