金崎の先制点は本人にとっても、チームにとっても大きな一撃だった。 写真:徳原隆元

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 日本は立ち上がりの7分、15分と立て続けに決定的なシーンを作りながらゴールを割れず、6月の対戦(0-0)のように相手GKを乗せてしまうのか、という嫌な流れでゲームに入ってしまった。正直に言えば、前回の再現も頭をよぎった。それだけに、金崎の先制ゴールが勝負の分岐点だったと言えるだろう。

2015.11.12 W杯アジア2次予選 第5戦|シンガポール 0-3 日本

 5年ぶりの代表復帰となった金崎にとっても、与えられたチャンス、しかもホームでモチベーションの高いシンガポール相手に結果を残したのは大きい。得点の場面は、武藤の折り返しに胸トラップから左足のボレーという高い技術が凝縮されたプレーだった。金崎は前線で身体を張れるし、チェイシングや対人の守備力も高い。これまで豊田やハーフナーら多くの選手がCFで試されてきたが、ようやく岡崎のライバルになりうるインパクトを与えられたのではないか。
 
 金崎と対等、いやそれ以上のプレーを見せたのが、トップ下を任された清武だ。4-1-4-1システムを敷いたシンガポールは、アンカーの両脇のスペースが大きく空いていた。清武は絶妙なポジショニングでギャップに常に顔を出し、ボールを受けると、近くの選手に横パス、スルーパス、バックパスを少ないタッチで捌き、リズムを作った。
 
 清武の「カラー」という意味では、独特なキックも見逃せない。彼のボールは見た目の軌道よりも最後に落ちる。例えば15分のFK、清武のクロス性のボールから森重が中央に折り返して本田のシュートにつなげたが、おそらく普通のキッカーならゴールラインを割っていただろう。清武のキックは最後の7、8メートルで急速に落ちてくるため、相手も反応しづらいのだ。本田や香川にも蹴れない、唯一無二の効力を証明したし、チーム2点目の起点にもなった点で、清武をシンガポール戦のMVPに推したい。
 もうひとり、ハリルホジッチ監督が試した“ニューフェイス”の柏木も評価したい。ボランチでプレーエリアが低く、そこまで目立ちはしなかったが、長谷部と山口が組んだ時の球出しよりも、前の選手が欲しいタイミング、欲しいコースにきちっと出せていた。ひと味違ったリズムで攻撃を作れる、柏木のパスセンスが出た試合だった。
 
 ただし、柏木と清武は相手がシンガポールだったから機能した側面でもある。強豪国とゲームで相手に押し込まれ、守備力が要求された場合に、ふたりの同時起用は考えがたい。結果を出したのは間違いないが、ハリルホジッチ監督が、最終予選やその先で、ふたりをどうやって活用していくか見ものだ。
 
 活躍した3選手の出来と反比例するように、低調だったのが両サイドの関係性だ。右の本田と酒井宏、左の武藤と長友の関係は明らかに上手くいっていなかった。試合序盤に酒井宏が抜群のタイミングでサイドを駆け上がったシーンで、本田は酒井宏を使わなかった。本来ならば、ミスになってもSBを使ったサイド攻撃を相手に意識付けて、ゲーム全体のリズムを作っていかなければいけない。もっとも、オーバーラップを仕掛けた際の酒井宏のクロスも全体的に質が低かった。彼が信頼を得るためにはプレー精度を上げる必要がある。
 
 また左サイドにしても、武藤はまるで“重戦車”のようで、相手に突むばかりでタメが作れなかった。その反動で長友がオーバーラップできず、クロスの供給数も少ない。途中出場した宇佐美は長友とスムーズなコンビネーションを見せていたぶん、武藤も起点を作ってSBの上がりをタイミング良く引き出すべきだ。両サイドのコンビネーションは改善の余地がある。
 
 17日のカンボジア戦には、その先に控えるシリア戦(16年3月)も考えると勝利が必要だ。そのうえで、ようやく火が付いた競争原理に、さらに相乗効果を生み出したいところ。シンガポール戦では2点目を取った時点で、なぜ南野を出さないのかと思った。10月シリーズではデビューこそ飾ったが、数分しか出番がなかった。カンボジア戦では先発、ないしは後半45分間使ってほしい。今回のボランチ、トップ下、CF以外にも、サイドハーフやCB、SBの競争が活性化すれば、チームのレベルもさらに上がるはずだ。