米国のキラキラネーム連中/純丘曜彰 教授博士
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マンディ、マリリン、ブリトニー、ティファニー、キャンディス、ブランディ、ヘザー、チャニング、ブリアナ、アンバー、サブリナ、メロディー、ダコタ、シエラ、ヴァンディ、クリスタル、サマンサ、オータム、ルビー、テイラー、タラ、タミー、ローラ、シェリー、シャンテッレ、コートニー、ミスティ、ジェニー、クリスタ、ミンディ、ノエル、シェルビー、トリナ、レバ、カッサンドラ、ニッキ−、ケルシー、シャウナ、ジョリーン、アーリー、コーディア、サヴァンナ、キャッシー、ドリー、ケンドラ、キャリー、クロエ、デヴォン、エミルー、ベッキー、ブランディーリン、ヘーザーリン、タミーリン、、、
「ホワイト・トラッシュ」、白人のクズ。この十数年来、映画の中でもよく見かける。辞書だと、白人の貧困下層、となっているが、ブリトニー・スピアーズがその典型とされるように、かならずしも貧しいわけではない。むしろしばしば自営業などを成功させ、経済的には勤め人の中産階級を追い抜いてしまい、それでよけい社会的に揶揄対象となる。
日本では博報堂が「マイルド・ヤンキー」などと言って、さも自分たちが発見したかのように偉そうに言いふらしているが、ヤンキーと名付けていることからもわかるように、これは、米国に先行して登場してきた新種の社会階層で、日本との産業競争に敗れた90年代から各地に蔓延してきた。古い「ホワイト・トラッシュ」の名を引き継いでいるが、それまでの悲壮感のある黒人奴隷並の白人貧困下層とは大きく違う。
彼らの特徴は、異様な色に染め、襟足だけバカみたいに伸ばしたマレット(女性はさらに長い「フェマル」)という髪型。首の日焼け除けのつもりらしい。まともな部屋さえ借りられず、ミニマムな中古トレーラーハウスで野っぱらに住み、太ってサイズの合わなくなったキャラクターもののTシャツ数枚をぱっつんぱつんのまま着回し、ヘタクソでチッポケなタトゥーを入れ、すぐに裸になりたがり、ハンバーガーとホットドッグ、ピザ、ジャンクフードのような炭水化物が主食で、タバコを吸いながら、それらをハイカロリーのビールとコーラで噛まずに胃に流し込む。学歴とは無縁で、教養も作法も無く、そもそもおよそ社会的上昇志向のかけらも無く、日がな三流のアニメとドラマ、スポーツ、ゾンビ映画をテレビで見て過ごし、通販と週末のショッピングモールだけが人生の楽しみ。
かならずしも悪い連中じゃない。浮気や離婚、家庭内暴力は日常茶飯事ながら、そのわりに家族仲は良く、近所つきあいも頻繁で、ぜいたくもせず、見栄も張らず、政治や宗教にも関わらず、ただ土田舎で日々の生活を謳歌している。それでしばしばイカモノくさい商売や芸能で、すばらしい成功を遂げるやつも出てくる。ただ、連中のライフスタイルは、夢と希望、努力と自制を信条として、まともな組織内における地道な上昇志向に凝り固まった社畜的レスペクタビリティ(きちんとしていること)第一の、従来の中産階級モラリティを根本から否定する。
ホワイト・トラッシュは社会貢献もしないし、できもしない。むしろ不健康で無教養で、悪気は無いにしても、いろいろめんどうな寄生的存在。中世の農奴なんて、こういう連中だったのではないか、と思わせる回帰退化っぷり。おまけに現代では、人権重視の法律と制度によって、連中はすべての面においてしっかりと守られている。むしろこの状況に進化適応した結果として、ああなったのか。自分自身であくせく勉強し、努力し、昇進しなければならない、と思っている人々の方が、もはや時代遅れなのかもしれない。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大 学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)