「仲間と、まじめに」――春口ラグビーのレガシー
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■「ラグビーは仲間作り」
花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生だ。春は別れの季節でもある。大学ラグビーの名将、関東学院大学ラグビー部の春口廣・前監督が3月いっぱいで同大学を定年退職した。4月11日、その退職パーティーに出席し、一時代を築いた『春口ラグビー』のレガシーを考えた。
春口さんは65歳。ラグビー指導40年間を締めくくる“最終講義”で、「ラグビーは仲間作り」と言った。横浜市内のホテルの会場には、発起人の桜井勝則・元監督ほか、日本代表だった松田努さん(東芝)や山村亮さん(ヤマハ発動機)、有賀剛さん(サントリー)らの教え子が集まった。
支援者を含め、ざっと300人。春口さんは涙をこらえ、こう漏らした。
「きょう、たくさんの仲間が、僕のノーサイドの瞬間にここにきてくれました。絆を大切にしてくれた。すごくうれしいね。感謝、感謝の40年でした」
■弱小チームを6度の日本一へ
波乱万丈だった。1974年、関東学院大学ラグビー部の監督に就任。「ラグビーボールもゴールポストもない」弱小チームをコツコツと鍛え、大学日本一6度の強豪に育て上げた。こうも、言った。
「ラグビーはゲームです。遊びです。競技です。技を競うんです。でも戦いじゃない。仲間作りなんです。それは相手をリスペクトし、認めることなんです。相手を認めない限り、絶対に自分を認めてもらえません。自分を認めてもらうためには、努力をする以外にないんです」
学生時代から約35年間も春口さんと接してきた桜井さんは説明する。「ラグビーについては、基本を大事にする先生だった」と。
とにかく基本練習にうるさかった。基礎体力を養い、一本のパスやキャッチ、ラン、キック、タックルを確実に実践させる。当たり前のことを100%できれば、勝負には勝てるのだという信念があったそうだ。
なるほど、関東学院大OBの日本代表選手をみれば、ベースには基本プレーの確かさがある。さらに桜井さんは「ラグビー以外では人との出会いを大事にしろ、と教えられた」と言った。「“人との巡り合いは奇跡的なことだ。人との付き合いを大事にしなさい”と」
どだい選手にとっていい指導者とはどういう人を言うのだろう。まずは上のステージ、舞台に立たせてくれる人がいい指導者といっていい。そこで成長させてくれる人。選手は舞台に立ってナンボだと思う。
■死ぬまで、ラグビー
でも大学の指導者であれば、そこに人間作りも入ってくるだろう。だから春口さんは学生にディシプリン(規律)を求め、生活態度、練習態度にもうるさかった。「まじめな選手じゃなかったら、ラグビーは絶対、うまくならない」と言っていた。
そういった意味では、2007年の部員の不祥事はつらかっただろう。悔しかっただろう。あの時、春口さんは「もっとも好きなラグビーを裏切った」と会見で涙を流し、監督を引責辞任した。
一昨年、リーグ戦2部に転落していたラグビー部再建のため、監督復帰したが、シーズン終了後、成績不振を理由に解任された。ひどい人事だったと思う。
でも、トータルでは、大好きなラグビーに没頭できた恵まれた40年間だったに違いない。退職パーティーの席上、春口さんの顔には、“やり切った感”がにじむ。「ほんと満足のいく40年間だった」と漏らした。
「ワタクシ、これから毎日サンデーです。ノーサイド、ここからまた、始まるね。アフターマッチファンクションを楽しみたい。死ぬまで、僕はラグビーをします」
心配は健康面か。春口ラグビーのレガシーとは無数の仲間であり、ラグビーをまじめに楽しむ文化である。
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(松瀬 学=文)