2014年3月決算で売上高、営業利益、純利益でいずれも過去最高を記録した富士重工業。

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■営業利益率は業界トップの13.6%

「為替以外のところで営業利益が増えている状況になっていて、会社の実力が強くなってきた」

富士重工業の吉永泰之社長はこう喜んだ。同社が5月9日に発表した2014年3月期連結決算は売上高が前期比25.9%増の2兆4081億円、営業利益が171.1%増の3265億円、そして当期純利益が72.8%増の2066億円となり、いずれも過去最高を記録。営業利益率は13.6%で、トヨタ自動車の8.9%を大きく上回る。もちろん、業界トップだ。

その理由は言うまでもなく車の販売が好調なこと。なにしろ82万5000台と前期に比べて10万台超、14%も伸びているのだ。しかも、「今もお客さまにお待ちいただいている状況で、本当に申し訳ない」(吉永社長)とうれしい悲鳴を上げている。

今期(2015年3月期)もその勢いは続き、販売台数は11%増の91万6000台を計画。そして売上高は13.0%増の2兆7200億円、営業利益は4.1%増の3400億円、当期純利益が4.1%増の2150億円を見込んでいる。売上高の伸びに対して利益水準が低いのは、将来のための投資を増やす予定にしているからだ。文字通り、富士重工は絶好調な自動車メーカーといっていい。

おそらくこの状況に一番驚いているのは富士重工の関係者かもしれない。なにしろ10年ほど前まではいつ消えてもおかしくないといわれていた会社だったからだ。1990年代までは、ピンチになるたびに当時の親会社である日産自動車やメーンバンクの日本興業銀行(現みずほ銀行)の支援を仰ぎ、なんとか乗り切ってきた。2000年になると、日産が経営不振に陥り、富士重工株を売却。それをゼネラル・モータース(GM)が引き取り、GMの支援を得ながらの再出発となった。ところが2005年、そのGMが業績悪化で20%の保有株をすべて放出。その一部をトヨタ自動車が買い取り、富士重工はトヨタグループ入りした。

■トヨタグループ入りで変わらざるを得なかった

それによって、富士重工は大きく変わらざるを得なかった。というのも、提携交渉でトヨタから厳しい言葉を浴びせられていたからだ。トヨタ幹部はホワイトボードに十文字のグラフを描き、横軸に「乗用か商用か」、縦軸に「実用志向か、スポーツ車のような走りを求めるか」。さらに販売台数をイメージした円を描いた。よく見るとスバル車とトヨタ車の円が微妙に重なっている。

そして、こう言い放った。

「これ以上、トヨタのゾーンの円に入ってくれば即座にたたきつぶしますから、そのつもりで」

トヨタの傘下にいながら、トヨタからいかに離れるか。富士重工の生きる道が決まった。当時、富士重工の業績は売上高1兆4465億円、営業利益420億円、当期純利益182億円と停滞が続いていた。

トヨタグループ入りしてから富士重工は大胆な事業の取捨選択を行い、経営資源を強みに集中。軽自動車生産や風力発電事業などから撤退し、自動車事業の強みに投資した。それは「安心と愉しさ」を追求した走りに関わる技術だ。その象徴的なひとつが衝突安全システム「アイサイト」である。同時に、トヨタから原価管理の手法を学び、1台あたりの収益性を大きく上げることに成功した。

そうしたことが円安効果によって一気に花を開き、今回の好業績に結びついたわけだ。「おかげで中期経営計画『Motion(モーション)-V』を2年前倒しで達成でき、今年度から新たな中期経営計画に取り組むことにしました」と吉永社長は力強く語る。

■「闇雲に台数だけを増やそうとは考えていない」

その中期経営計画は「際立とう2020」という名称で、2020年のあるべき姿を示したもの。大きくはないが、強い特徴を持ち、質の高い企業を目指そうというのだ。具体的には、お客さまからの信頼ナンバーワン、高いブランド力、業界高位の利益率、販売台数110万台プラスαの4つの目標を掲げる。

「闇雲に台数だけを増やそうとは考えていない」と吉永社長は強調し、2つの活動に集中していくという。その2つとは、スバルブランドを磨くことと強い事業構造を創ることだ。 

特にスバルブランドを磨くについては、「安心と愉しさ」を追求するために、新設計の次世代プラットフォームSGP(Subaru Global Platform)を2016年に投入し、水平対向パワーユニットの次世代化を進めて全車社直噴化に刷新する。そして、デザインについてはダイナミックとソリッドをデザインコンセプトに、一目でスバルとわかるデザインにする。また、遅れている環境対応に関して、PHV(プラグインハイブリッド車)を2017年頃に投入する。

「社内に対しては、商品で守りに入るなといっている。やはりうちみたいな会社はチャレンジし続けていかなければいけない。商品で守りに入ると、逆に売れなくなってしまう可能性が高い。開発チームにはのびのびやらせたいと考えている」と吉永社長は話す。

いずれにしても富士重工は、今後さらに個性を追求し、“際立つ”企業を目指して邁進していく方針だ。

(ジャーナリスト 山田清志=文)