今月初頭、中国の大手通信機器メーカー「ファーウェイ(HUAWEI)」がアメリカ市場から撤退すると報道され、大きな話題を呼んでいる。

すでにご存知の方も多いだろうが、昨年、米下院の情報特別委員会がこんな報告を行なっているのだ。

「中国のIT企業ファーウェイ社の製品が組み込まれた電子・通信機器が、米軍、政府、民間の電力、金融などのシステムを破壊したり、混乱を起こす恐れがある」

その後の記者会見でも、マイク・ロジャース委員長が「ファーウェイの通信機器が真夜中に勝手に作動し、大量のデータを中国へ送信しているフシがある」と指摘。つまり、ファーウェイ製品は中国の“サイバー工作員”ではないかという疑惑が、以前から囁(ささや)かれていたのだ。

『月刊中国』編集長で、『あなたのすぐ隣にいる中国のスパイ』(飛鳥新社)などの著書がある鳴霞(メイカ)氏が解説する。

「ファーウェイは人民解放軍と国家安全部との“軍警合弁会社”とも呼ばれ、日本の公安関係者の話によれば、スパイ要員や人民解放軍のサイバー部隊が社内で各種の訓練を受けているといいます。だからこそファーウェイ製品が組み込まれた機器は攻撃や傍受がたやすいのでしょう。こうした訓練は、05年の時点で始まっていたという情報もあります。

実はインドでは、10年の時点でファーウェイ製品を含む中国製通信機器に輸入禁止措置が取られており、イギリス、オーストラリア、カナダなども似たような疑惑を抱いている」

アメリカだけでなく、世界各国でファーウェイ製品に対し疑惑の目が向けられているのだ。ただし、これらはあくまでも“疑惑”であり、ファーウェイがアメリカ市場から撤退する理由も、こうしたウワサが流布しすぎて製品が売れないから、との見方もある。

では、日本はこのファーウェイ製品をどう見ているのか? 鳴霞氏が続ける。

「日本の携帯会社などは今も驚くほど無警戒で、ガラケーやスマホ、ルーター、通信基地局などにファーウェイ製品を導入しているのです。もしかすると、すでに日本企業の機密情報、日本国民の個人情報がたくさん抜き取られている可能性もあります」

サイバー攻撃に対する日本政府の危機管理について、中国のサイバー戦略に詳しいジャーナリストの古是三春氏はこう警告する。

「日本はいまだにサイバー戦を“戦争”ではなく、単なる“治安問題”と考えているフシがある。ようやく防衛省に大規模なサイバー防衛隊(仮称)が創設されることになりましたが、IT産業からのリクルートもなく、これまでの初歩的なサイバー防衛研究の蓄積だけをもとに要員を教育するというヒヨッコ部隊にすぎません。

IT産業の有識者の間では、『サイバー戦は平均的な能力を持つ1000名より、10名の天才的な技術者のほうがはるかに効果的かつ深刻な影響力を発揮できる』とされています。日本の現状は大いに危惧すべきものだと思います」

特定秘密保護法が成立したとはいえ、日本の“情報”に対する危機管理は、世界からみたら驚くほどに低いというのが現状のようだ。

(取材/世良光弘、興山英雄)