Dさんの家計簿

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■Dさんの悩み

50代でリストラに遭ってしまったDさん。失業給付を受けながら再就職はできたものの、年収は半減した。月の手取り収入は約22万円である。結婚以来専業主婦だった妻もパートに出るべきかと考え始めた。

大学生と高校生の子がおり、まだ教育費がかかる。老後も迫っているが、老後資金を貯めるまで手が回らない。それどころか足りない生活費が約20万円にもなり、ボーナスや貯蓄から補填している。

救いは住宅ローンをあと2年で完済できること。しかし下の子の大学受験を1年後に控えており、いまのうちに家計をリストラしたいと考えている。

■家計再生コンサルタント 横山さんのアドバイス

いまがいちばん苦しいときだろう。十分な貯蓄がない中でリストラされ、年収半減となるとさすがにきつい。

本来ならボーナスには手をつけないのが理想だ。ボーナスの配分が高い会社とそうでない会社があるにせよ、「ボーナスがどれくらい残るか」で私たちは家計の健全度を見る。Dさんはこの点で危ない。

ただ、いまの家計を見ると貯蓄から補填するのもいたし方ない。ゼロにすることは難しいかもしれないが、できる限り減らすことを考えよう。子どもが独立したら生活費は下がるが、老後まで時間がないため、贅沢と思える支出をとことん見直していくことだ。

改善できるとしたらどこか。大きな割合を占めていたのが「食費」「水道光熱費」「教育費」の3項目。基本中の基本だが、収入が増えない中でお金を貯めるには支出を抑えるしかない。

支出には2種類ある。毎月の支払額が決まっている「固定支出」と、月に応じて支払額が変わる「流動支出」だ。固定支出は一度落とせば毎月自動的に減るため、効果は大きい。家賃や保険料がこれにあたる。しかし無駄と気づきにくいうえ削りづらいため、「ブラックホール」ともいわれる。

それに対して、やりくりで結果が出るのが「食費」「水道光熱費」といった流動支出。頑張るだけ落ちていくので、節約意識が高い家庭では極端に安いこともある。Dさんの家計を見る限り、節約の意識は低かったといっていい。冷蔵庫をこまめにチェックし、無駄な食材は買わない。こうした努力で食費が月3万円減った。

次に水道光熱費。電気のつけっ放しをやめ、節水を心がけることで月々7000円のダウンに成功。わずかな額に見えても年間にすれば食費と合わせて44万円強で、馬鹿にできない。

教育費は「できれば減らしたくない」のが親心だろうが、大学生の子には奨学金制度を利用してもらうようにした。また、高校生の子には年払いの予備校代がかかっていたが、予備校は夏期・冬期の講習と模試だけにして、あとは大学受験まで学校の授業と参考書で乗り切ってもらう。長期休みの講習も必須科目のみ、模試も必要最低限に絞ることで教育費を3万円削った。

夫の生命保険も見直した。子どもが大きくなれば高額な死亡保障は必要ない。死亡保障額を減らしていい時期は大きく3つある。(1)住宅ローンを借りて住宅を購入したとき、(2)子どもが就職して独立したとき、(3)定年退職をしたときだ。まだ子どもは独立していないが、もう死亡保障は減らしていい時期だろう。

通信費、交際費なども少しずつ減らし、貯蓄やボーナスからの補填は約20万円から2万円に9割カット。最終目標は赤字を出さないことだが、ここまでくればあとはラクなはずだ。

Dさんの場合、あと2年で住宅ローンの支払いが終わり、住居費の負担がなくなる。9万8000円をそのまま貯蓄に回せば58歳からの2年で約240万円となる。

夫が60歳まで働くとすると、ボーナスがもらえるのはあと4年間。42万円×4年=168万円には手をつけず、なるべく取っておく。これで約400万円が貯まる計算になる。もちろん60歳以降も健康なら働いて、できる限り老後に備えよう。

これから1100万円くらいの資金がつくれれば、現在の貯蓄額と合わせて1500万円になる。厳しいことは厳しいが、年金と合わせると何とかなりそうだ。

年収が高かった人がリストラされたとき、急に生活レベルを落とすのは難しい。そのうえ、50代になると子どももそろそろ手が離れるので自分の人生を楽しむためにお金をかけたい、と考える人も多い。しかし最近は右肩上がりの年収も保証されず、優雅な老後を送れるのは、ひと握りの層というのが現状なのだ。

■世代別「老後破滅」ウイルス&処方箋

●「右肩上がり」夢遊病

【症状】バブル期も経験し、給料は家族の成長に合わせて毎年上がるものと思ってきた。戦後生まれに特有の病。これまでは夫の給料だけで十分余裕のある生活ができたので、いまもその夢を見ており、食費や光熱費の節約はする気がない。生活レベルを下げる暮らしは想像すらできない。

【処方箋】まずは食費や光熱費を減らすことから始めよう。一般家庭の食材廃棄率は平均3割という。冷蔵庫チェックをするだけで食材の無駄を減らせる。これを習慣にしてしまえば完治する日も近い。

●「子巣立ち幻想」障害

【症状】子どももそろそろ大学生。これまでかかっていた学費や塾代が減るのでそれを老後資金に回せばいいし、「とくに準備などしなくてもいいのでは」という悪魔のささやきに頭の中を支配されている。

【処方箋】塾代や通信費など、自由に使わせていると子どもは「うちは裕福」と勘違いし、いつまでも自立できなくなる可能性も。大学生なら奨学金を活用しよう。スマートフォン利用で高くなりがちな携帯電話代は一部本人に負担させるなど、子どもの頃から正しい金銭感覚を身につけさせる。

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家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー
横山光昭
1971年生まれ。FPとして司法書士事務所に勤務した後、2001年に独立。5300人以上の家計を再生した実績を持つ。

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(家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー 横山光昭 構成=八村晃代 撮影=アーウィン 写真=PIXTA )