“圧倒的”な党内支持を得て、野田総理が再び民主党の代表となり、与党比較第一党への返り咲きが確実視されている自民党は、日本を『美しい国』にしようとして一度失敗した安倍元総理を“顔”に選んだ。
 2大政党のトップが決まり「10月はいよいよ解散総選挙!」となるはずだったのだが、隣国との互いに譲れない領有権問題が大きすぎて、あれだけ注目度の高かった橋下徹大阪市長率いる『日本維新の会』(以下、維新)への期待感さえ、日々萎んでいる印象だ。飛び込んだ現職国会議員7人が、「誰やねん」と突っ込みたくなるほどショボイのも原因かもしれないが…。

 いずれにしろ、維新は全国300の小選挙区と、比例に350〜400人の候補者を擁立する方針。しかし、発足したばかりで無党派層の支持を頼みとした典型的な都市型政党であり、戦術は見えている。
 前回の総選挙では、都道府県庁所在地である小選挙区の『1区』対決で、民主は37勝8敗と自民に圧勝した。過去最大の“1区現象”が実現して政権交代につながったわけだ。民主は従来、都市部に強いとされてきたが、2005年は小泉劇場に翻弄され13勝32敗と大敗。1区はもともと無党派層が多く、風が吹いている政党に有利。維新の候補はおそらく、ほとんどが地元に縁のない落下傘候補だろうが、それでも勝てるのが1区。今回は全国の1区で維新の候補者が大量当選する可能性がある。

 そんな1区現象の“象徴”となるかもしれないのが東京1区だ。与謝野馨氏が引退表明しているので、民主の海江田万里元経産相に自民とみんなの新人候補が挑む三つ巴だが、もし東国原英夫前宮崎県知事が維新から出れば独走もある。
 北海道の横路孝弘衆議院議長、山形の鹿野道彦前農水相、岐阜の野田聖子氏、徳島の仙谷由人元官房長官、佐賀の原口一博元総務相など、1区には大物や有名議員が多い。北海道1区には新党大地から歌手の松山千春氏が出馬する可能性があり、もしこれが実現すれば維新でも当選は無理だろう。

 1区以上に維新が猛威を振るうのは、もちろん関西だ。中でも大阪は同党に歯向かう候補者全員が討ち死にとの分析もある。大阪を地盤とする民主党議員はモロに影響するはずだ。
 藤村修官房長官(大阪7区)、平野博文元官房長官(同11区)、樽床伸二前幹事長代行(同12区)、さらに辻元清美氏(同10区)らがこれにあたる。また京都2区の前原誠司前政調会長は、さすがに“落選”は考えにくいが、京都5区には自民の谷垣禎一前総裁がいる。消費増税主導の戦犯として地元の風当たりも強かったようだが、総裁選で不出馬を強いられたことに同情票が集まっているらしく、落選はなさそうだ。
 維新からは著名候補の出馬も多数うわさされている。関西で抜群の知名度を誇るフリーキャスターの辛坊治郎氏や、元モデルで“美人すぎる大阪市議”として話題の伊藤良夏氏らもそうだ。橋下氏のブレーンで元経産省OB古賀茂明氏への待望論も根強い。誰がどこの選挙区に出てくるのか、既存政党の候補者たちは戦々恐々だろう。

 一方、前回大ブームを巻き起こした“小沢ガールズ”は、その大半が落選すると見られている。83人いた'05年の初当選組の中の、いわゆる小泉チルドレンでさえ、4年後に当選したのはたった10名のみだ。
 民主離党組の青木愛氏(東京12区)、三宅雪子氏(群馬4区)、太田和美氏(福島2区)は、いずれもかなり厳しい状況。また、民主党に残った中では、国交省キャリアとの不倫疑惑が報じられた田中美絵子氏(石川2区)が公認さえ見送られる気配。かろうじて福田衣里子氏(長崎2区)が、当選という感じだが、民主党からではない可能性もある。

 さて、次の選挙の大きな争点の一つが『原発』だが、自民党以外はどこも“脱原発”だからやっかいだ。ある選挙区に民主、自民、生活、みんな、維新の候補者が立ち、自民以外のそれぞれが脱原発を訴えた結果、唯一の“原発推進政党”自民党が漁夫の利を得るという構図もあり得るのだ。もっとも何を訴えたところで、それを守ったことのある政党など一つもないのだが…。