トヨタ自動車のお膝元である中部圏で、前代未聞の動きが浮上した。愛知、岐阜、三重の3県の自治体自らが、ライバルである日産自動車との取引を模索すべく、来年2月に神奈川県厚木市にある日産の研究開発拠点で商談会を開催、トヨタ系部品メーカー100社の参加を見込んでいるのだ。
 トヨタといえばピラミッド型の強力な系列組織を誇り、これをテコに業界の盟主の座を不動にした会社である。それにもかかわらず、行政が系列の枠を超えて日産との商談会を計画し、広く参加者を呼びかけていること自体、世間の目には“?”としか映らない。
 「1ドル=80円前後の円高が長期化し、国内で年間300万台の生産を唱えるトヨタにしても、コスト削減のために海外からの部品調達を拡大せざるを得ない。トヨタ系の部品メーカーには『仕事を失い、路頭に迷うのではないか』との危機感が渦巻いている。そこで行政が音頭を取ったのです」(経済記者)

 関係者によると、真っ先に日産への商談会を持ちかけたのは岐阜県で、これに愛知県、三重県が同調した。地元経済の落ち込みを防ぎ、雇用を確保するにはトヨタへの依存度を薄めた方が得策との判断にほかならない。とはいえ、見方を変えれば「トヨタの今後は不安。だから日産との二股作戦を推奨した」とも受け取れる。トヨタの“当て馬”が、なぜ日産なのか。
 「ホンダは三重県鈴鹿市に工場があるのに対して、日産は近隣に工場がない空白地域です。その分、地元の総意としてラブコールを送れば応じやすい。まして日産・ルノー連合はロシアの自動車会社(アフトワズ)を買収した結果、世界販売台数でトヨタを抜いて世界3位に躍り出たばかりです。そんな勲章が輝いているところへ『トヨタに代わって地元経済の後ろ盾になって欲しい』と擦り寄れば、日産のゴーン社長が小鼻をピクつかせて飛びつかないわけがありません。中部圏に強力なクサビを打ち込む絶好のチャンスとあってはなおさらです」(業界関係者)

 これには伏線がある。あまり知られていないことだが、トヨタの城下町である愛知県豊田市は今年の3月、中小企業向けに商談会を開催した。これに日産が初めて参加し、自動車内装用の合成皮革などの独自技術を展示したばかりか、出席したトヨタ系部品メーカー幹部など約100人を前に日産サイドが講演し、「日産の技術を使えば開発費用と時間を節約できる」と売り込んだのだ。関係者が続ける。
 「トヨタの牙城に日産を招いた市当局の狙いは『脱トヨタ依存の勧め』に尽きます。国内の自動車市場が縮小すれば部品メーカー間の競争が激化する。だからこそトヨタだけに依存していたのでは生き残れないとして、系列を超えた取引を促そうとしたのです。数年前までなら、到底考えられない話ですよ」