選手会が、WBCへの不参加を表明した。「選手会はカネを優先した」という批判もあるが、それは的外れであるように思う。

 そもそも、WBCという大会のいびつさは否定しようもない。利益の分配についてだけでなく、日程や組み合わせについても不可解な点が多い。また、「国際大会」を謳いながら、アメリカの試合でアメリカ人審判がゲームを裁くという馬鹿馬鹿しさもある。過去2回の大会における日本代表の激闘には心から拍手を送るが、僕自身はこの大会の存在自体には以前から懐疑的であった。

 MLBが“言いだしっぺ”であり、さらには運営母体にもなっているのだから、こうした不公平も「当初は」前提条件だったのかもしれない。だが、2011年に国際野球連盟(IBAF)が公認したことにより、WBCはたんなる「アメリカのお庭でやる野球大会」から、「真の世界一を決める国際大会」となった。ならば、これまで課題とされてきた不可解かつ不透明な大会をクリアにしていく必要がある。

 今回の選手会の主張は、一参加国として当然の主張だろう。ひとつ残念なのは、論点をスポンサー料などの金銭面だけに絞ってしまったこと。ここに、上述したような日程や組み合わせ、審判問題なども盛り込んでいれば、「あいつらはカネのために不参加を決めた」という的外れな批判を浴びずとも済んだかもしれない。

 だが、本来、こうしてMLBにモノ申すべき立場は、選手会ではなく、NPBのはずだ。それが、あまりの弱腰外交によってMLBの言いなりになっている状態に業を煮やし、こうして選手会が代わりに訴えているのではないか。本来、矢面に立つべきNPBが本来の職務を放棄し、さらには選手会の決議に「出場するよう説得する」などとコメントしているのを見ると、その存在意義を疑ってしまう。彼らが交渉し、説得すべき相手は、選手会ではなく、MLBのはずだ。

 そもそも、WBCに対して、アメリカ国民やメジャーリーガーたちはそれほど熱くなっていない(それでも利益の大半はMLBに入る)。韓国でも不参加の動きがあり、もし、このまま日本がWBCに参加しなければ、いずれ大会は廃れていくだろう。そのことも踏まえ、日本にはぜひ真の国際大会創設へ向けて音頭をとってほしい。もちろん、これも選手会ではなくNPBの仕事だ。国際野球連盟(IBAF)主催のW杯をもう一度復活させたっていい。

 と、ここまで書いて、加藤良三コミッショナーにそこまでのリーダーシップを期待できないことにがく然とした。「ええい、もうこうなったら俺がやる!」――そんな心境だ。

 最期に、この選手会の決議を受けた加藤コミッショナーのコメントを紹介したい。

「選手会に伝えたい、考えてもらいたいのは、日本のファンのこと。金目では換算できない。WBCで2回連続でチャンピオンになった意味は大きく、出ないことの影響を真剣に考えないといけない」

 なるほど。では、僕からもひとこと。

「コミッショナーに伝えたい、考えてもらいたいのは、野球のファンのこと。傍目には理解できない。再任で2回連続でコミッショナーになった意味は大きく、続投となったことの損失を真剣に考えないといけない」

希望 僕が被災地で考えたこと希望 僕が被災地で考えたこと
著者:乙武 洋匡
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