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準決勝。最初の試合はお隣同士の対決となった。両チームにチームメイトも多いことから、外野が盛り上がれそうなカードである。EURO、ワールドカップと頂点に君臨しているスペインをどこが倒すのか、というのは世界中の注目になっていて、ポルトガルが挑む形である。

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 ポルトガルの守備の特徴である。クリロナを浮かせるために、ナニが守備をがんばろうである。なので、注目すべきポイントはクリロナサイドの攻防である。スペインで調子の良い左サイドのジョルディ・アルバ×イニエスタコンビには数的同数で対応できるが、右サイドはどうなるか不明である。
 
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 スペインはゼロトップとワントップを併用している。実際には、こちらを立てればあちらが立たず状態になっている。図からもわかるとおり、クリロナがめんどくさい位置にいる。これがポルトガルの今までの戦い方である。なお、クリロナもこれは危険かもしれないと判断した場合は空いての攻撃参加についていくことがある。なお、その判断基準は見ていてもまるでわからない。

 この試合ではネグレドである。何度か試合で見かけたが、実はいまいち特徴がつかめていない。献身的に守備をする印象はない。ワントップで身体をはりまくるイメージもない。ただ、決定力はある。得点は決める。そんな印象である。なので、どのような仕事をたくされたのかは、デルボスケに聞いてみたい。

 最初に仕掛けたのは、スペインであった。そのネタはアルベロアの攻撃参加である。序盤から積極的な攻撃参加を見せるアルベロアはコエントランとぶつかる場面が多かった。8分の決定機にアルベロアがゴールを決めていれば、クリロナのせいでなくても、クリロナが批判されていた可能性が高い。

 スペインの立場からすると、アルベロアの攻撃参加に対して、クリロナがどのように実際に振る舞うかの情報が欲しかったのだろう。

 注目すべきはポルトガルの攻撃に対するスペインの守備の考え方であった。
 
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 今大会のスペインは高い位置からの攻撃的な守備、ボールを失った際の素早い攻守の切り替えが目立っている。すぐにボールを奪い返せ、ボールは俺達のものだ大作戦である。

 その作戦はこの試合でも遂行された序盤戦。しかし、前プレが相手にロングボールを蹴らせ、それがDFラインの裏まで吹っ飛び、ナニとクリロナと徒競走というのはきつい。高さ勝負では負ける要素があまりないので、だったら、最初からラインを下げるのが吉である。

 しかし、序盤に見られたのはいつものハイプレスである。なので、シャビ・アロンソとブスケツはめちゃくちゃに困る。DFラインとの距離、モウチーニョたちの対応を考えると、無闇にMFラインを上げるわけにはいかない。だからといって、前線を見殺しにするわけにもいかない。

 なので、イニエスタやシルバが中央に絞らせる場面が目立ってくるのだけど、そうなると、SBから試合を作っていくポルトガル。非常にたちが悪い。そして、SBから放り込んでくるからもっとたちが悪い。じゃ、ミゲル・ヴェローゾをほっておくと、今度はそこから攻撃を仕掛けてくる。ここまで来ると、よくぞやってくれたである。

 まとめると、スペインは守備の狙いの準備が定まっていなかった。そして、前プレでボールを奪えると計算していたかもしれないが、パトリシオからの放り込みでその計算は成り立たなくなる。ポルトガルからしても、前プレに正面衝突するバカがどこにおんねん!ということだろう。

 こうして、スペインはいつもの高い位置でボールを奪って相手のボールを保持する時間を削るという部分を乱されることになる。効率良くボールを奪えなければ、相手の攻撃機会を増やすことにもなるし、自分たちの攻撃機会が減る。で、これが試合にどのような影響を与えていくのかというお話。
 
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 これでパトリシオの出番は減った。ポルトガルはボールを繋ぐことで、攻撃のリズムを掴むことや守備機会を減らすことで休息時間を手に入れたのが大きい。逆にスペインはなかなかボールを奪えない時間も続いた。ただし、ボールを奪えれば、なかなか奪われないんだけれども。

 28分のイニエスタの決定機まではポルトガルのセットプレーの機会が目立つ展開となる。イニエスタの決定機はスペインらしくない放り込みに飛び出したネグレドのキープから生まれている。

 スペインがボールを保持できたときの主な形である。

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 ポルトガルの守備から。イメージとしては、とにかくボールホルダーにプレスをかけることで、相手の時間を削る。削られた時間の中で判断をさせることで、プレーの精度を落とす。CBからボールを受けられそうな中盤の選手をマークすることで、ショートパスの選択肢を削る。

 なので、シャビ・アロンソを落として、プレスをはがそうとしても、相手が3人出てくるだけであった。状況はまったく変わらず。なので、CBから相手の隙間でボールを受けるシルバにボールが渡るような場面で状況を打開するか、ボールを繋ぎながら後方で相手を自力ではがすかの二択である。シルバにボールは渡る場面もあったが、そんなスーパーな場面はなかなか作れない。

 ポルトガルの考えとしては、相手はロングボールを裏に放り込んでくることはない。なので、DFラインを高くして、ミゲル・ヴェローゾたちの裏のスペースをケアする。また、カシージャスをビルドアップに組み込むことは積極的に行わないと予想し、人数をかけた前プレをしても効果がでると考えたのだろう。

 なので、28分の放り込みはとうとう来たかという予感をポルトガルがした可能性はある。なお、スペインの苦し紛れのネグレドを目指したロングボールはペペやブルーノ・アウベスに跳ね返される場面だらけであった。ちなみに、ポルトガルの守備によって、スペインはいつものボール運びができなかったわけだけど、だからといって、ショートカウンターをくらうようなへまはしなかった。こちらもしっかりリスクマネージメントである。

 30分からのスペインは前プレを復活させる。ここで勝負である。そうなると、パトリシオの出番が増えるポルトガル。繋げなそうなときはバックパスを多用するポルトガルだったが、ここまで襲いかかってくると、あとは前線に託す形になる。

 このロングボールが惜しい形になることもあったが、中頃に見られたショートパスで繋ぐ場面に比べると、やはり攻撃の精度は低い。となれば、スペインにボールが渡る機会が増えるようになり、それはスペインの攻撃機会が増えることを意味する。もちろん、前半の終了間際になって、ボールホルダーへのプレスが効かなくなってきたという面も無視はできない。

 ただ、得点を奪えるような場面を作ることはできないまま、前半は終わった。まだ、前半かよ。

 後半が始まると、スペインは前プレでなはく、前半の中頃に見せた低い位置からの守備を見せる。交代策もまだあるわけで、勝負どころはそこではない。

 恐らく安心したポルトガル。ロングボールを中心に攻撃していくが、ちっとも可能性がない。なので、自力でボールを運んでいくスタイルに切り替える。スペインはそれは許さんとメイレレスやモウチーニョに襲いかかるんだけど、ポルトガルもボール保持ではそこそこである。簡単には奪え切れない。

 スペインはそっちではなく、こっちを修正してきた。前半にも最後のほうでカシージャスをビルドアップで使う場面があったが、後半は最初から多用。なお、カシージャスはちっとも周りに時間とスペースを与えていなかったが、それでも、後ろに下げてもOKという状況が与える心理的余裕の大きさは、ポルトガルが示し続けている。

 スペインはとにかく後方でボールを動かして、ボールホルダーにプレスのかからない状況を作るために尽力する。イニエスタがまでが下りてきたのはこの代表らしくなくて驚いた。そんな動きもあって、前半よりもいい形でボールを運べるようになっていくスペイン。そうなると、SBも高い位置でボールを受けられるようになっていく。

 で、最初に動いたのがスペインであった。ブルーノ・アウベスにふっとばされ続けたネグレド→セスク。なお、ほぼ同じタイミングでポルトガルも動いている。

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 セスクは相手のCBの近くで動きまわっていたが、味方からはスルーされていた。セスクがポジションを下げて、中央の数的優位に貢献する場面はほとんどなかった。ペペが対応になれているってのも大きかったかもしれない。

 クリロナは左サイドからセルヒオ・ラモスとジョルディ・アルバを崩しにかかる。ジョルディ・アルバは攻撃参加が持ち味なので、クリロナを牽制して攻撃参加をしないなんてことはないだろう。というわけで、こっちのサイドは斬り合いの様相になる。

 それを見たか、デルボスケはヘスス・ナバスを投入。両サイドから果敢に攻撃しようという意味合いだろうか。前半に比べると、ボールを運べているので、サイドから仕掛ける場面も出てきている。その役割はアルベロアでは心もとないのも事実である。

 スペインが攻撃的に出たので、ポルトガルはアウメイダを左サイドに落として4-1-4で守備をセットした。なお、ナニが左に移動すれば、アウメイダは右に移動する。こうして、スペインの攻撃に対して対抗を試みる。

 ヘスス・ナバスはいわゆるクロスを上げるのではなく、突破を期待されて登場。しかし、そんなことはわかっているコエントランに突破は封じられている模様。こうなると、アルベロアの攻撃参加が待たれる。

 時間がたつにつれて、セスクは存在感をましていく。いわゆる相手から離れてボールを受けて仕掛けることで、影響力を発揮していく。ポルトガルはクリロナがフリーダムな動きをするようになり、そこからの強引な仕掛けが目立つようになる。スペインは高い位置からの守備を行わないので、ポルトガルは何とかボールを前線に運ぶ→セットプレーの機会を得る場面が多かった。

 しかし、両チームとも決定打はなかった。終了間際のカウンターの絶好機もクリロナが外す。いわゆる、not his day。

 延長になると、さすがにガス欠気味のポルトガルにスペインが仕掛ける場面が増えていく。後半の最後にシャビ→ペドロで左サイドを強化&トップ下にイニエスタで戦術はイニエスタ状態になったスペイン。左サイドのジョルディ・アルバ×ペドロコンビは時間を重ねるごとに強力になっていって、ドリブルでスペインの攻撃に違いをつくるイニエスタに苦労するようになる。

 延長後半には、ヘスス・ナバス×アルベロアのコンビで決定機をつくるが、パトリシオ。しっかりと最後の壁となってチームを支える。また。ポルトガルはペペとコエントランのレアルコンビが尋常でないパフォーマンスでスペインを抑える。

 そして、試合はPKになり、結果はスペインの勝ちであった。

 ■独り言

 書き忘れたことを思い出せば、ポルトガルはハイボールをジョルディ・アルバとアルベロアに放り込んで空中戦の勝率をあげようとしていた。基本的に無理をしない姿勢でリスクマネージメントしながらセットプレーで勝機をつかめればみたいなプランだったかなと。また、SHとSBの縦のポジションチェンジからCBを引き出してみたいな場面も多かった。

 スペイン。苦しみながらも勝ちきれるのはやはり経験のなせる技か。延長前半にイニエスタが得点を決めていれば、この大会はイニエスタの大会になったかもしれない。まだ保留。スペインが決定機を掴んだのはSHとSBのコンビネーションからだったことがこの試合の象徴とも言えそうである。