[Ina Fassbender / Reuters]

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 ラウル・ゴンサレスが、今季限りでシャルケを退団すると発表した。今年34歳。1977年生まれの"スペインの至宝"は2シーズン前にレアル・マドリーを退団し、シャルケへやってきる。
「ラウルはスゴイんだよ。どんなときも最後までファンサービスをするんだよね。その人気の凄さにも驚いたけれど、ファンを大切にする姿に感動した」
 同時期にシャルケへ加入した内田篤人は、ことあるごとに、ラウルを褒める。
「どんな試合でも、力を抜いたプレーを見せたことがない。コンディション管理への気配りも相当なもので、年齢に関係なく、攻守に渡って走り廻ってくれる。そして、昨季(2010-11)のチャンピオンズリーグでは、試合を決める大きな仕事を何度もやったんだよね」
 ラウルの高い技術だけでなく、献身的なプレーや豊富な運動量に、内田だけでなく、シャルケの試合を見ていた人は、何度も驚嘆したはずだ。特に昨季も今季もゲームのリズムを作る、ゲームメーカータイプのボランチ選択に苦労したシャルケにおいて、ラウルは攻撃MFにとどまらず、少しポジションを下げて、ゲームのタメを作るプレーにも汗をかいていた。下がってボールを受けて、パスを出したあと、再び前線へと駆けあがり、パスを受けて、ゴールを目指す。パス&ゴーのお手本のようなプレーを何度も見せてくれた。
 常に複数のパスコースを作り出し、選択の幅を広げる。そんなラウルのイメージをフンテラールやファルファンが共有し、ゴールを量産することができたのが、今季のシャルケ3位躍進の理由だと思う。
まさに、ゲームメイカーとして君臨したのがラウルだった。

 ボランチにボールが収まらず、そこからの展開も乏しい。そうなると右サイドバックの内田が攻撃に出るタイミングもなかなか掴めない。「サイドバックを活かすも殺すもボランチ次第」と話すこともあった。そんなときでも、ラウル存在が光った。下がった位置から、内田へパスを出す。内田はそれを一旦ファルファンやラウルに戻し、自身はライン際を駆けあがり、ファルファンと右サイドを攻略していく。
 ファルファンと内田の好関係性は、二人だけのものでなく、そこにラウルがいてくれたから……だと改めて感じる。長短のパスと動き出しによって、攻め込むシーンが今季は多かった。
 レアル時代よりも、この2年間のプレーのほうがラウルの凄さが伝わってきた。チームにとって欠かせない存在、代えられない選手として4月のヨーロッパリーグと国内リーグの連戦時に敷かれたターンオーバー制でも、彼の名は不動のままスターティングメンバーに名を連ねていたのだから。

 ラウルを初めて見たのは、1996年のアトランタ五輪大会だった。日本とは違う組だったが、同地区で試合があり、見に出かけたのだ。U‐18スペイン代表から積み重ねてきた代表としての自覚、風格が漂っていた。若きエリート選手は、その年にはA代表デビュー。2006年までに102試合に出場し、44得点をマークしている。クラブでは、15歳からレアルの下部組織でプレーし、1994−95シーズンからトップチームで頭角を現し、リーグ戦550試合出場228得点という成績を残し、レアルを去った。
 モウリーニョ監督が就任し、チームの世代交代が囁かれる中、ラウルは移籍を決断した。イングランドなど様々なオファーの中から、ドイツの古豪を選ぶ。そして新天地での生活は充実していたと振り返ってもいる。デュッセルドルフの高級住宅街で、穏やかな時間を家族と過ごせたと。

 シャルケでの活躍は前出した通り。ほぼすべての試合に先発したと言っても過言ではない。
「スペイン(のクラブ)を相手にした試合では、試合前から雰囲気が変わる。背中から漂う空気が違うんだ」