当初は査定方法を巡る対立だったはずだが、結果的に読売と同じ年俸5億円の4年固定契約をホークスから提示され、頼りにしているというオーナー代行から査定方法見直しの言葉も引き出した後で、「球団幹部に対する不信感がぬぐえなかった」「感情が元に戻らなかった」と感情論に帰結させたのは如何なものか、杉内投手。

 元々ジャイアンツに憧れがあったのは入団交渉時の言動にも明らかであり、移籍にも好条件の獲得にも何ら文句をつける筋合いはない。
 しかし、口惜しさの余りベンチで指を骨折するほど熱血であるにせよ、「FAを獲っても必要とする球団はない」という昨年の更改時の幹部の言葉を今頃持ち出すのは戴けない。スポーツマンとしては些か情緒過剰なのでは。代理人弁護士の知恵臭くもあるにせよ。

 根の部分というか、踏み切らせたのは昨年の交渉時の小林至取締役編成部長との感情のもつれというのは確かだろう。
 だが、先の科白はこう解釈することも出来るのでは。
 年俸3億5千万のキミをFAで獲ろうとなれば、単年でプラス1億、最低でも3年契約にはなるから15億円かそれ以上の資金を準備しなければならない。そんな球団ありますか―と。
 考えると、高給取りの落合監督が退いたとはいえ中日は苦しい。となればソフトバンク以外には読売か阪神しかない。そして手を挙げたのは読売だけだった。読売の体質は変わらないが、万が一見送らざるを得ない事情でも生じていれば…

 おそらく、読売程ではないにせよ高額年俸選手を集めることに躊躇しない球団の収支を幾分でも改善する意欲を持って成功報酬方式を打ち出した小林氏が、交渉時にどのような言い方をしたのかは知らない。
 
 あるいは―東大出でコロンビア大学でMBAを取得しているかもしれないが、ロッテの二軍で2年やっただけの元四流選手(確かに話題作りのための入団劇だった)が何を偉そうに―と感じさせる言動があったのかもしれない。
 しかし、もっと上のオーナーレベルが出張ってきたら初めの提示と同じ内容で合意というのは、面子に偏る選手をカン違いさせるプロ野球界の悪しき風習である。同僚の小久保選手の事前交渉がなかったと噛みついた行動と同様に(このときは小林氏が謝罪したらしい)。
 選手としては、成功報酬型の変動制より、急なダウンもない換りに何千万もの大幅アップもない固定性がいいというのであれば、その方向でフロントと話をし、まとまらないがどうしても拘りたいというならその時に身の振り方を考えればいいだけのことである。

 そもそも、昨シーズン末の契約更改における杉内投手の査定は、それまでの3億円から5千万円のアップ。成績は5完封を含め前年度より勝ち星を一つ増やし(16勝)、2年連続の最優秀投手賞も得たが、登板回数や勝率、防御率は下回った。成功報酬型が徹底されたなら、西武の涌井選手のように「本来なら減俸だが」とか「現状維持だな」と言われても不思議はなかった。
 しかし5千万円増。他所のエースや自軍選手との比較やプライドは分かるが、もともと数字自体は過不足のない、4年連続二ケタ勝利の実績を加味すればこその提示ではなかったのか。

 作成中に、小林氏が流出の責任を取って辞任という一報を知った。私が知る限りの彼の合理的なものの考え方やバイタリティーからして、さほど悲劇的に捉えることはないと思うが、これでファンやプロ野球選手が納得するようなら、後味は悪くなる。

 プロ野球界の報酬が高すぎるという見方や、固定制か変動制かというテーマは別項に譲りたい。