セリエA最終節、インテルの今シーズンのリーグ戦ラストゴールは、長友佑都の右足から生まれた。3月6日のジェノア戦以来となるシーズン2点目。マイコンの代役として右サイドバックとして出場した長友は攻守にハイパフォーマンスを披露し、『ガゼッタ』紙のマン・オブ・ザ・マッチに選出された。

 インテル加入後の長友の成長速度には、目を見張るものがある。チェゼーナ時代もチーム内でトップクラスのパフォーマンスを示していたが、よりレベルの高い環境で揉まれることにより、長友は飛躍的に“進化”している。現地イタリア人記者は長友の進化をどう評価するのか、そして、来シーズンの長友の去就をどう見ているのか。『ワールドサッカーキング』に寄稿された、ロベルト・フザーロ氏の意見に耳を傾けてみよう。

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 冬の移籍マーケット最終日、インテルが長友佑都の獲得を発表した時点で、インテリスタの大半は彼のプレーを知らなかった。インテリスタからすればチェゼーナは馴染みの薄い地方クラブ。長友の移籍決定を知った最初のリアクションが「ナガトモ? どんな選手なんだ?」であったのも無理はない。

 インテリスタの好奇心を満たすべく、ミラノのメディアが紹介したのは、チェゼーナでのプレーではなく、移籍決定直前に行われたアジアカップ決勝でのプレー。これは長友にとって大きな幸運だった。そこで紹介されたのは、小柄なドリブラーがスピードとテクニックでオーストラリア代表の巨漢選手を翻ろうする、左サイドでのドリブル突破を何度も成功させ、最後には精度抜群のクロスで決勝ゴールをアシスト。しかも、これが消耗の激しい延長戦でのパフォーマンスだということにも意味があった。更に、イタリア人監督のアルベルト・ザッケローニにアジア王者のタイトルをプレゼントしたという点も、インテリスタが長友に対してポジティブな第一印象を抱く大きな要素となった。当然ながら、イタリア人もイタリア人監督が他国で成功を収めるのを見て悪い気はしないものだからだ。

 日本と日本人選手を良く知るレオナルド監督の支えもあり、長友はインテルの環境にスムーズに溶け込んだ。ピッチでは加入当初こそ周囲との連係がうまく行かず、“使われるタイプの選手”である長友は持ち味を発揮できない場面もあったが、これも時間が解決してくれた。クリスティアン・キヴが暴力行為で出場停止を受け、スタメンでプレーするチャンスが与えられたのも幸運だった。

 長友はチャンスを生かし、自分の持ち味を披露することで周囲の信頼を獲得していく。3月以降の長友は、キヴとのローテーションで左サイドバックを担当し、マイコンが欠場した時には右サイドバックを任されることにもなった。この原稿を書いている時点で長友加入後にインテルが消化した公式戦は20試合(5月11日に行われたコッパイタリア準決勝セカンドレグまで)。彼はそのうち16試合で出場しており、うち11試合は先発フル出場。自分の居場所をしっかりと確保している。

 以上を前提に、日本のみなさんが気にしているであろう「来シーズンのポジション争い」を考察してみたい。最大のライバルは左サイドバックのキヴとなるが、彼とのポジション争いで重要なのは、「どちらが優れているか」ではなく、「チームがどちらのタイプを必要としているか」である。長友は生粋のサイドバックで、縦への突破力があり、正確なクロスで決定機を演出できる。守備も一対一のマッチアップには強さを見せる。一方、本来はサイドバックではないキヴは、守備的MFとしてのカラーが濃い。

 一対一にも強いが、危険なスペースをケアする感覚に優れ、基本的にはポジショニングで相手の攻撃に対応しようとする。攻撃時はサイドのスペースを突くのではなく、ハーフウェーライン付近にポジションを取り、パスワークに参加したり、ロングフィードで攻撃に変化を付けたりと、ゲームメーカーとしての役割をこなす。つまり、長友とキヴとの優劣の比較は、左サイドバックのポジション争いとは直接の関係がないことになる。

 では、来シーズンのインテルの左サイドバックには、どちらのプレーが求められるのか。これは監督が志向するスタイル次第だが、つい先日、マッシモ・モラッティ会長はレオナルドの続投を明言した。レオナルドは攻撃サッカーを愛するブラジル人。左サイドバックに“長友的な選手”を求めていることは明らかだ。そうでなければ、実績に乏しい長友にいきなりあれだけの出場機会を与えることはなかったはずだ。来シーズン、長友が左サイドバックのレギュラーに据えられる可能性は高いと私は見ている。ではキヴはどうするのか? 彼は以前から自分の持ち味を最大限に発揮できるボランチ、あるいはセンターバックでのプレーを望んでいた。放出される可能性もあるが、残留するにしても本来のポジションでプレーすることになりそうだ。

 そしてもう一つ、長友には右サイドバックでプレーするという選択肢もある。第27節のサンプドリア戦、このポジションで先発出場した長友は見事なプレーでチームの完封勝利に貢献している。ただし、マイコンとのポジション争いに勝てるとは思えない。マイコンは長友と同じく生粋のサイドバックであり、しかもこのポジションでは世界最高の選手だ。一方、レンタルから復帰するダヴィデ・サントンもポジション争いの相手になるが、現時点で長友はすべての面で上回っていると言える。

 いずれにしても、レオナルド続投が長友にとって追い風であることは間違いない。インテル加入後の彼は幸運続きのようだが、運を味方にすることも名選手の必須条件である。

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 そして迎えた最終節、冒頭で触れたように、長友は右サイドバックで圧巻のパフォーマンスを披露した。2年目の飛躍、長友の来シーズンにはより一層の期待が持てそうだ。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。