超円高経済・企業が取るべき行動

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 2008年のリーマン・ショック前後から、対ドルでの円高が進み、2010年秋には1ドル80円台、そのまま大きく持ち直すこともなく現在に至っています。
 政府も為替介入(2010年9月)などの対策を講じていますが、今のところ効果は出ていません。
 現在の円高への対応は、基本的に“いかにして円安の状態に戻すか”という観点に基づいていますが、その観点に異を唱えるのがエコノミストの浜矩子氏です。
 浜氏は著書『1ドル50円時代を生き抜く日本経済』(朝日新聞出版/刊)現在の円高を
 
 現状は<円高>ではない。<ドル安>なのである。
 さらに言うなら<ドル安>と言うより、「長年続いてきたドルへの過大評価に対する修正がいよいよ最終局面を迎えている」とみるのが正しい評価である。


 と評し、さらに円高が進んだ結果「1ドル50円」という、究極のドル安時代が到来する可能性をを示唆しています。
 ドル安は今後も改善される可能性は低く、その中で政府や企業がどのような対策を取るか、という点を重視すべき、という考えです。

 それにしても「1ドル50円」とは、にわかには想像もつかない超円高ドル安経済ですが、そんな時代に向けて企業はどのような備えをしておかなければならないのでしょうか。

■ドル建て取引にこだわるのは危険
 企業が「1ドル50円時代」を生き抜くために、企業がまずやらなければならないこととして、浜氏は「1ドル50円になることが、日本が破綻することを意味する」という考えを捨てることを挙げています。
 それもそのはず、ドルの価値が下がるということは、ドルの世界的な通用性が低下し、円の存在感は増すことを意味するので、日本が破綻するというのはおかしな話です。
 「円高の進行→日本経済大打撃→日本破綻」という説には、一つの条件づけが必要になります。つまり、「従来のやりかたを変えなければ」という条件です。
 
 では、日本企業の経営はどのように変わっていくべきなのでしょうか。
 今後、日本は、世界経済の中で成熟債権国としての立場がいよいよ明確になっていきます。そうなると、これまでのような“円安の波に乗って遠くまで行ける”といった考えは捨てなければなりません。
 その上で企業は、例えば貿易会社なら、取引を円建てにしてゆく、円建て一本では難しいのであれば人民元建て取引も行うなど、その時々に応じて合理的な決済通貨の組み合わせを作り上げる柔軟さが必要になってきます。
 「きめの細かさを得意とする日本企業にはうってつけ」と浜氏は述べています。

 また、社内採算レートの設定も、これまでのドル建てだけでなく、複合的に考えていく必要がある、と浜氏は言います。ドル安時代において、これまでのようにドル建てだけにこだわるのは、リスクを伴うようになります。
 きたるべき超円高ドル安時代に向けて、取引通貨を多様化することも求められるようになるはずです。

 日本は円高経済に対してどう対処すべきなのか、また、そもそも現在の円高の理由は何なのか(リーマン・ショックだけではありません)、など本書はとっつきにくい経済を、実例を交えてわかりやすく紹介しています。
 難しい印象のある「経済」ですが、整然と解説された本を読むと、とても奥深くて楽しいものだということがわかります。
(新刊JP編集部/山田洋介)

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