ファーストタッチは悔やまれるが、松井の見事な駆け引きがこの日最大の見せ場を生んだ<br>(Photo by Tsutomu KISHIMOTO)

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1−0で勝ってもおかくしないゲームだった。10月12日にソウルで行われた、韓国との親善試合である。

76分、長谷部誠の極上のラストパスから、松井大輔がペナルティエリア内左でシュートを放つ。トラップが外側へ流れたためにコースが狭まっていたが、とにかくシュートへ持ち込んだ。次の瞬間、相対するDFの右手が勢い良く跳ね上がった。「明らかなハンド」(松井)である。

ところが、ウズベキスタン人のラフシャン・イルマトフ主審は、何のアクションも起こさなかった。日本のDFが同じプレーをしたら、おそらくはホイッスルを口に運んでいたはずである。前半からところどころでホームタウン・デシジョンを感じさせていたが、こればかりは過剰な気配りと言わざるを得なかった。

しかしながら、悔やまれるのは松井のファーストタッチだろう。ソウルのワールドカップスタジアムはピッチコンディションが劣悪だったが、このシーンは芝生の影響を避けることができていた。松井の技術的なミスである。しっかりタテへ持ち出していれば、05年11月のアンゴラ戦以来のゴールを決められたのだが……。

ヒーローになり損ねた松井だが、シュートへ至る流れを巻き戻すと、彼が自ら作り出したチャンスだったことが分かる。

ハーフライン手前で長谷部がパスを受けた瞬間、松井は敵陣のセンターサークル内にいた。右サイドバックのチェ・ヒョジンが、後方から追いかけてくる。フリーのまま左サイドを抜け出して、どうにかシュートへ持ち込みたいところだ。

松井の動きは違った。チェ・ヒョジンを振り切ろうとするのではなく、ランニングのスピードを落とすのだ。そのうえで、相手の走るコースに身体を押し込む。前方に立ちふさがったのだ。

目の前の松井に突っ込んだチェ・ヒョジンは、バランスを崩して両手を突いてしまう。すぐに立ち上がったが、松井は手を伸ばしても届かない距離まで離れていた。

松井の減速には、オフサイドラインを気にする意味も含まれていたはずである。それにしても、見事な駆け引きだった。

松井と長谷部が「ハンドだ!」と主審にアピールする輪のなかには、チェ・ヒョジンも見つけることができる。PKを取られずに命拾いをした彼が、なぜ主審に詰め寄る必要があるのか?

すぐ隣の青いユニホームを指さしながら、自分が倒れるきっかけとなった松井のプレーを「反則だ」とアピールしているのだ。日本にPKを与えなかったイルマトフ主審も、ここではチェ・ヒョジンの言い分をあっさりと退けている。

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