【戸塚啓コラム】松井大輔のハイレベルな駆け引き
![ファーストタッチは悔やまれるが、松井の見事な駆け引きがこの日最大の見せ場を生んだ<br>(Photo by Tsutomu KISHIMOTO)](https://image.news.livedoor.com/newsimage/3/3/3330cfb54fc7ba5e1855359f0cd28e19-m.jpg)
76分、長谷部誠の極上のラストパスから、松井大輔がペナルティエリア内左でシュートを放つ。トラップが外側へ流れたためにコースが狭まっていたが、とにかくシュートへ持ち込んだ。次の瞬間、相対するDFの右手が勢い良く跳ね上がった。「明らかなハンド」(松井)である。
ところが、ウズベキスタン人のラフシャン・イルマトフ主審は、何のアクションも起こさなかった。日本のDFが同じプレーをしたら、おそらくはホイッスルを口に運んでいたはずである。前半からところどころでホームタウン・デシジョンを感じさせていたが、こればかりは過剰な気配りと言わざるを得なかった。
ヒーローになり損ねた松井だが、シュートへ至る流れを巻き戻すと、彼が自ら作り出したチャンスだったことが分かる。
ハーフライン手前で長谷部がパスを受けた瞬間、松井は敵陣のセンターサークル内にいた。右サイドバックのチェ・ヒョジンが、後方から追いかけてくる。フリーのまま左サイドを抜け出して、どうにかシュートへ持ち込みたいところだ。
松井の動きは違った。チェ・ヒョジンを振り切ろうとするのではなく、ランニングのスピードを落とすのだ。そのうえで、相手の走るコースに身体を押し込む。前方に立ちふさがったのだ。
目の前の松井に突っ込んだチェ・ヒョジンは、バランスを崩して両手を突いてしまう。すぐに立ち上がったが、松井は手を伸ばしても届かない距離まで離れていた。
松井の減速には、オフサイドラインを気にする意味も含まれていたはずである。それにしても、見事な駆け引きだった。
松井と長谷部が「ハンドだ!」と主審にアピールする輪のなかには、チェ・ヒョジンも見つけることができる。PKを取られずに命拾いをした彼が、なぜ主審に詰め寄る必要があるのか?
すぐ隣の青いユニホームを指さしながら、自分が倒れるきっかけとなった松井のプレーを「反則だ」とアピールしているのだ。日本にPKを与えなかったイルマトフ主審も、ここではチェ・ヒョジンの言い分をあっさりと退けている。
【関連記事】
・無条件で称賛してはいけない −アルゼンチン戦レビュー(2)
・国内親善試合の歯がゆさ −アルゼンチン戦レビュー(1)
・代表の可能性を拡げる長友のラストパス −グアテマラ戦レビュー(2)
・似て非なる積極さと高慢さ −グアテマラ戦レビュー(1)
関連情報(BiZ PAGE+)
![戸塚啓コラム](http://image.news.livedoor.com/newsimage/vender/totsuka.jpg)
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している