練習後、報道陣の質問にこたえる稲本潤一<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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 9月4日、バーレーンにあるクラブチームのスタジアムで日本代表は練習を行なった。前日に続き、2日間連続で冒頭15分のみを公開し、あとは非公開でのトレーニングとなった。

 合流した海外組の中村俊輔、松井大輔、長谷部誠は先発出場が濃厚。そして、今回はじめて、岡田ジャパンに参加したのが、フランクフルトに稲本潤一である。3月に行われた3次予選に一度招集を受けるが、故障した足の手術で辞退したため、昨年9月のオーストリア遠征以来、約1年ぶりの代表となる。

「代表招集に関しては、タイミングや自分の足の状況など、いろいろあった。新しいシーズンに入り、コンディションも非常にいいけれど、まさかいきなり最終予選に呼ばれるとは思っていなかった。でも呼ばれたということは期待されていると思うので、チームに馴染むとか、戦術を理解するということは重要なことだと思っている」

 トルシエ、ジーコと両監督時代の代表チームに欠かせない存在だった稲本だが、ジーコ政権の途中から先発をはずれ、ワールドカップドイツ大会も出場機会は少なく不本意な大会となった。その後、代表への参加機会が激減していた。

「もう1回ワールドカップの舞台に立ちたいという気持ちはありますし、試合に出るかは別にして、このチームにいられるのは誇りに思うし、そこで自分に何ができるのかを考えてやっていきたい」

 久しぶりの代表招集。15歳のころから日の丸をつけ、U−17世界選手権(現・U−17ワールドカップ)以降、各年代の世界大会を経験し、22歳でワールドカップ日韓大会に出場というエリート街道を歩んできた稲本だからこそ、久しぶりの代表公式戦へ向けての思いを清々しい表情で語った。

 岡田監督からは「ドイツでのやり方とは違うとは思うけれど、このチームのやり方に慣れて欲しい」と言われたようだ。

 それについて稲本は「もちろん、ドイツと代表ではチーム戦術が違う。人が動くという部分が違うけれど、そのほうが僕自身はチャレンジしやすい。ドイツでは1対1での場面が多いので、カバーリングをするシーンは少ない。でも、代表でのサッカーのほうが前線へ行きやすい」

 所属するドイツのフランクフルトでは、主に守備面での仕事を任されているが、日本代表では、ワールドカップでも得点を決めたように、稲本はその攻撃力に評価を得ている。高い位置でボールを奪い、そこから前線へ展開するというのは、岡田ジャパンのスタイルであり、稲本の持ち味でもある。

「高い位置でボールをとって、そのままゴールまで向かうという姿勢は出していきたい。合流初日は大変だったけど、チームにもこの暑さにも、徐々に馴染んで居るので、良いコンディションで試合に臨める」

 まだチームに合流して日が浅いため、「雰囲気とか様子を見ていることも多い」と話すが、「現在の代表メンバーでは、年齢的に上から数えた方が早いという立場になったので、上の人がひっぱっていく役割はしていかなくちゃいけない」と、早くも自分の役割を一つ認識しているようだ。

 イングランド、トルコ、そしてドイツでの経験。日の丸をつけての経験と彼が持つ国際経験は、岡田ジャパンにはない部分でもある。だからこそ、ワールドカップアジア最終予選初戦という大舞台での稲本招集は、大きな力となるはずだ。

「合流初戦のキリンカップには出場させてもらえたけど、一緒にやった時間がわずかしかなかったからまさか3次予選で起用されるとは思っていなかった。」と、同じブンデスリーガに所属する長谷部が話していたが、稲本にも同様のチャンスが与えられる可能性は高い。

 しかし、本人も「ぶっつけ本番」と話すように、参加からわずか3日間で迎えるバーレーン戦。ボランチという攻守の要となる要職をいかに果たすことができるのか?高温多湿での試合が予想されるだけに、試合のペース配分、運び方をコントロールする役割を担うことになるだろう。そして、これまでの彼の“経験”を生かす好舞台となるに違いない。

 ただし稲本を起用すれば、6月のカルテット(中村、松井、遠藤、長谷部)を崩すことにもなる。ちなみに、3次予選アウェイでのバーレーン戦では、それまでレギュラーだった遠藤をベンチに置き苦戦を強いられた……。

 いったい中盤の構成はどのようになるのか?岡田監督の采配と共に、稲本の起用法にも注目したい。

text by 寺野典子