今田竜二=獲得賞金1億を突破。でも、飛行機移動は今でも頻繁にエコノミーを利用している(写真/田辺安啓=JJ)

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先週、日本の男子ツアーは初めて海を渡り、戦いの舞台を北京に据えた。アジアツアーとの共催試合という形で開催されたパインバレー北京オープンは、低迷する日本の男子ツアーの選手たちに戦う場を1つでも多く与えるための苦肉の策だった。しかし、日本の報道によれば「出場資格優先上位の上位20人のうち、出場はたったの3人」とのこと。なんとも情けない状況だ。

選手たちが出場を尻込みした最大の理由は「翌週にメジャーである日本プロ選手権を控えて」と報道されていた。もちろん、選手によっては他の理由もあるのだろうけれど、少なくとも北京と東京の移動距離は、せっかくのチャンスを投げ出さなければいけないほど大変な距離ではないし、今や中国は「国外へ、はるばる遠征だ!」と身構えなければならないほど遠い異国では決してない。

そんなことを考えながらアメリカに目を向けると、面白い例を挙げることができる。今年の全米オープン会場はカリフォルニア州サンディエゴ。その前週の試合会場はテネシー州メンフィスなのだが、「北京〜東京」と「メンフィス〜サンディエゴ」は、偶然にも、ちょうど同じぐらいの移動距離なのだ。その移動が大変だからメンフィスは欠場しようと考える米ツアー選手はまずいない。もっとも、ビッグネームたちともなれば、メジャーの前週は意図的に休もうとか、そんな作戦を練る場合もある。たとえば、タイガー・ウッズやジム・フューリックなどはメジャー前週は通常は休む。これは彼らのスタイルとして確立されたものだ。逆に、フィル・ミケルソン、ジェフ・オギルビー、アダム・スコットなどはメジャー前週も出場する。が、そんな選択が許されるのは、日ごろから十分な活躍ぶりを披露し、十分すぎるほどの賞金を稼ぎ、十分すぎるほどの試合に出られる環境にあるからこそだ。

どう贔屓目に見ても、今の日本ツアーの選手たちは、そんな「贅沢」を言っていられる環境下にはない。ツアーそのものの運営や維持に危機感が漂っているからこそ、ツアー側も苦肉の策で中国まで舞台を広げているのだ。母体がそこまで「お膳立て」をしているのに、肝心の選手たちが、せっかく用意されたちゃぶ台を蹴飛ばすような状態では、先行きは暗くなるばかり。例えるなら、世の中が食料危機に瀕しているのに、その危機感が感じ取れず、誰かがあの手この手を尽くして手に入れてきてくれたナケナシの食料を「この味はあんまり好きじゃない」と言って放り出すようなものだ。

米ツアーで戦う今田竜二のところへ、「弟弟子」にあたる貞方章男が電話をかけてきたそうだ。「北京オープン、出たほうがいいかな?」今田は「出られるなら、そりゃあ出たほうがいい。出ろ、出ろ!」。そして貞方自身、絶対に出ようという気になった。それでも、貞方には出場資格が巡ってこず、結果的には出られなかった。

世界を見渡せば、試合に出たくても出られないプロゴルファーが大勢いる。そういう選手たちは虎視眈々と戦う機会を探しながら腕を磨いている。いわば、ハングリー精神に溢れているのだ。そんな世界の現状を知ってか知らずか、差し出されたチャンスをふいにした日本ツアーの選手たちは、もう少し、我が身とその周辺をじっくり眺めてほしい。(舩越園子/在米ゴルフジャーナリスト)