東京・銀座の不二家数寄屋橋店(撮影:吉川忠行)

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不二家は伝統のペコちゃん人形のように、辛い日でも・・・、雨の日でも・・・、生活者のみなさまに笑顔を送っていきたい」──。

 東京・銀座の一等地に本拠を構える名門菓子メーカー「不二家」6代目の藤井林太郎社長。1910年に洋菓子屋を創業した林右衛門氏を祖父、2代目・誠司氏を父に持ち、トップを輩出し続けてきた“華麗なる一族”の当主は、200人近くの報道関係者を前に直立不動で言葉を詰まらせながらこう語り、10年間あった自らの社長の座を辞する意向を表明した。

 藤井社長は、期限切れ原料使用による一連の不祥事について「組織ぐるみとは言われかねない件が何件かあった」と企業体質そのものに問題があったことを言明。同族経営の弊害について問われると、「同族会社であることがイコール、コンプライアンス(法令遵守)の欠如を招くということはない」と強く否定した。

 一方で、同族による長期ワンマン経営が、隠蔽(いんぺい)体質など不祥事の温床となったとの見方は根強い。不二家の大株主構成を見ると、森永製菓やりそな銀行などの法人株主に次ぎ、2.1%を保有する林太郎社長、1.8%保有の正郎・取締役、義郎・取締役と藤井家個人の名前が並ぶ。2002年の日本ハムの牛肉偽造事件、06年のパロマ工業の湯沸器死亡事故などの例を見るように、同族の大株主が取締役会を支配し、企業の私物化や内部監視の甘さを生みやすい構図だ。

 同社長は、辞任後は会長職などにとどまらない考えを示す一方で、株式を保有し続けるとし、後任を創業家から指名する可能性については明言を避けた。

 企業法務に詳しい三井法律事務所の熊谷真喜弁護士は、不祥事が生まれる背景として「株価が下がると自分の財産が目減りしたり、最近では買収されるリスクも高くなってくるので、オーナー社長は『株価を上げたい』『決算を良くしたい』と考えるようになる。社長が“鶴の一声”を出せば、従業員も引き下がらざるを得ず、ストップがきかなくなりがち」と話し、ワンマン経営に警鐘を鳴らす。

フランチャイズ店、消費者にも困惑広がる
 
 問題が表面化して以降、フランチャイズ店(FC)や消費者からも困惑の声が上がっている。

 東京・神楽坂の不二家飯田橋店では、1967年から独自ルートで原料調達してつくる同店オリジナル商品「ペコちゃん焼き」を、「不二家の工場とは無縁の仕入れ」を理由に11日以降も販売を継続。不祥事が明るみになって迎えた初めての週末となった14日には、空っぽの陳列棚をよそに、人気商品を求め20〜30人が列を作った。

 しかし、辞任会見の開かれた15日午後には、「当店としても困惑と憤りを禁じ得ない」とする張り紙を残したまま、再開未定で閉店していた。16日朝、「ペコちゃん焼き」を買いに来た調布市の男性(52)は「不祥事とは直接関係ないんだから堂々とやればいい。楽しみにしていたのに」と残念そうな表情を浮かべ店を去っていった。

 洋菓子部門の売り上げベースでは、山崎製パン、銀座コージーコーナーに続く業界3位の同社だが、同部門は03年3月期から4年連続で営業赤字が続く。「黒字化を目指せる程度まで業績は回復してきた」(藤井社長)矢先の不祥事だけに、経営へのダメージも大きい。

 また、不二家は直営やFCを合わせ全国に約900店舗を持つが、全店舗売上は1日6000万円から1億円前後で、休業中の粗利ベースの補償額は1週間で総額1億円に上るという。問題が長期化すればするほど経営に与える影響は甚大だ。

 懸念される資金繰りについて、藤井社長は「当面は大丈夫」とメーンバンクのりそな銀行から支援を受ける見通しを示す一方、「若干の資産の売却を検討する」とも語った。今後は、東京・銀座の自社ビルなど不動産や、藤井社長が取締役を務めるB-R サーティーワンアイスクリームの保有株式43.3%分など、代々受け継がれた資産の売却を検討し、森永など他社の支援も視野に入れながら、経営再建に取り組むと見られる。【了】

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