F15E戦闘機(Photo by gettyimages)

写真拡大

米国防総省、衝撃の発表

航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機「F35A」の墜落事故から間もなく2ヵ月。捜索に協力していた米軍は事故から1ヵ月経過したところで撤収し、日本側だけで操縦士と機体の捜索を続けていたが、その捜索も6月3日、ついに打ち切られた。

海底からフライトデータレコーダー(飛行記録装置)の一部を回収したものの、肝心の記録媒体が見つからず、事故原因の解明にはつながらなかった。また岩屋毅防衛相は7日の会見で、操縦士の遺体の一部が発見されたことを明らかにした。事故原因が不明のまま飛行を再開するのは危険だが、航空自衛隊は、残る12機のF35Aの飛行を再開する見通しとなっている。

こうした中、訪日したトランプ米大統領は米国の大統領として初めて護衛艦に乗艦した。

横須賀基地の護衛艦「かが」の艦内で、トランプ氏と並んだ安倍晋三首相は、海上自衛隊と米軍の兵士らを前に「今後、かがを改修し、(短距離離陸・垂直着陸が可能な)STOVL戦闘機を搭載する」と述べ、「いずも」「かが」の空母化とF35Bの導入を明言した。

続いて、訓示に立ったトランプ氏は「日本は最近、105機のF35戦闘機の購入を発表した。日本は同盟国の中で最大規模のF35保有国になる」と日本によるF35の「爆買い」を歓迎してみせた。

日本政府はF35Aの墜落後も、105機のF35追加購入の方針を変えていない。墜落原因が機体にあるのか否かが未解明でも、とにかくブレずに買い続けるというのだ。

この「105機のF35追加購入」は、2019年度からの新「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」を閣議決定したのと同じ昨年12月18日、閣議了解された。日本政府の正式な決定である。

具体的には、航空自衛隊が保有する201機のF15戦闘機のうち、レーダー、電子機器などの近代化改修が難しい旧タイプの99機をF35と入れ換えることを意味する。実現すれば、F35は航空自衛隊が保有する戦闘機で最多の機数となる。

だが、この閣議了解から3ヵ月後の今年3月12日、米国から衝撃的なニュースが伝わった。

米国防総省は2020年度国防予算案を公表する中で、戦闘機の購入について「F15EX戦闘機8機の調達費として10億5000万ドルを計上する」「2020年度から2024年度までの5年度で80機を調達する」と発表した。

日本が退役させると決めたF15を米国は80機も購入するというのだ。

F15E戦闘機(Photo by gettyimages)

米軍が導入するのは、老朽化したF15C/D型の代替機。空中戦専用のC/D型と違って、EX型は対地・対艦攻撃が可能な戦闘攻撃機となる。

なぜ米国は、40年以上も前に開発されたF15をいま購入するのか。

ダンフォード統合参謀本部議長は3月にあった米上院軍事委員会で「機体価格でF15EXはF35と比べて少し安い程度だが、維持管理費の面では、F15EXはF35の半分以下である。機体寿命の面では、F15EXはF35の2倍以上である」と明快に説明した。

一方で「米空軍の将来の主力戦闘機はF35であり、彼ら(米空軍)はそこから離れることはない」とも述べた。このような突き放した言い方をしているのは、米政府や米議会で価格、維持費、性能の各面でF35への批判が高まる中、F35にこだわり続ける米空軍への批判が込められているからだ。

F15EXの性能について、製造元である米ボーイング社は、米ロッキード・マーチン社のF35と比べて(1)ミサイルや爆弾の搭載量が多い、(2)航続距離がより長い、(3)速度もより速い、といった利点を挙げる。

F35購入決定の裏事情

確かにF15EXは、F35の最大の特徴であるレーダーに映りにくいステルス性で劣るものの、戦闘攻撃機としての能力はF35を上回る。

では、どうして日本政府は「105機のF35追加購入」を決めたのか。

実は昨年の閣議了解の前まで、防衛省でもっぱら検討されていたのはF2戦闘機の後継問題だった。F2は2030年ごろに機体寿命を迎えることが分かっていたからである。

防衛省はF2の後継機開発をめぐり、国際共同開発を最有力として米英3社に後継機のアイデアを募集する情報要求書を渡し、3社から回答を得ていた。

一方、その後「105機のF35追加購入」に伴い退役することになるF15は、退役時期が決まってないことから、この時には後継機の選定は始まってもいなかった。

F2とF15で後継機との入れ替え時期の順番が逆転したのは、ひとえに「安倍政権のお家事情」と考えるほかない。

トランプ大統領は就任した2017年1月、早々にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱、カナダ、メキシコ、中国と相次いで2ヵ国間の貿易交渉に取り組み、今年4月からは日米の自由貿易協定の交渉が始まる段取りになっていた。

トランプ氏は、日本からの輸入車にかける関税を現在の2.5%から「25%に引き上げる」とぶち上げたり、「日本車輸入の数量規制をする」と脅したりもしていた。

その一方で、2017年11月に初来日した際、トランプ氏は「非常に重要なのは、日本が膨大な武器を追加で買うことだ」と述べ、具体的にF35などを例に挙げて、武器購入を迫っていた。

トランプ大統領とF35(Photo by gettyimages)

こうしたトランプ氏の出方に対し、安倍政権は「(輸出額のトップを占める)自動車を守るには、米国製武器の大量購入以外にない」と考えたのではないだろうか。

しかし、F2後継機を米国と共同開発した場合、完成まで数年を必要とし、生産開始はそれ以降となる。生産を分担して米国に代金を支払うとしても、これでは4月からの自由貿易協定の交渉に間に合わない。

そこでトランプ氏の求める「F35の大量購入」が浮上したのだろう。大量購入を迫るトランプ氏の意向を反映させて、「105機はすべて米国からの輸入とする」ことも閣議了解に盛り込まれた。

無駄遣いだと知りながら

だが、この閣議了解は、あまりにも乱暴である。

まず第1に、まだ使える99機のF15を退役させて廃棄するか、安倍政権で始まった武器輸出の対象とするほかない点に問題がある。

常々、安倍首相は「日本を取りまく安全保障環境が悪化している」と言明する。武器輸出は、世界の安全保障環境の悪化を促進することにはならないのだろうか。

第2の問題は、現在、日本国内で組み立てているF35をすべて輸入に切り換えることにより、1870億円もの国費をかけて構築した三菱重工業などの生産ラインが今後使われなくなり、投資が無駄金になることである。

「安倍一強」の下、軍事的合理性を無視して戦闘機の後継機選びに手を突っ込み、その挙げ句、まだ使えるF15を退役させ、防衛費の無駄遣いと知りつつ強行したのが「105機のF35大量購入」なのである。

そもそもF35は、それほど優れた戦闘機なのだろうか。

その答えは米政府がF35ではなく、F15EXを80機も購入することから明らかだろう。問題のひとつは、機体そのものにある。

米会計検査院(GAO)は今年3月、「F35は深刻な欠陥を抱えたままで、今後数年は解決しない問題もある」と指摘した。

「危機的で安全性や重要な性能を危険にさらす」とした深刻な欠陥は、昨年の報告書で指摘された111件のうち13件が未解決のままだ。昨年12月に運用試験が始まった後にも新たに4件が判明したという。

F35に対するGAOの評価は、現状では「欠陥機」ということになるが、GAOの指摘の感想を求められた岩屋防衛相は記者会見で、「不具合があった場合は原因を特定して対策を講じ、運用を継続する」と述べた。「F35ありき」なのだ。

コケにされている

しかし、F35の組み立ては日本国内で行われているものの、部品の大半は米政府によってブラックボックス化され、その部品の持つ意味も製造技術も日本側には開示されていない。

GAOが指摘した欠陥問題について問われた岩屋氏は「米政府に確認している」と答え、米国に丸投げしていることを認めた。

驚くべきことに防衛省は、米国で半ば常識となったF35の欠陥問題について、「米政府から聞かされていない」(防衛省幹部)という。聞かされていなければ、調べればよいのだが、それもしていない。

F35を開発した当の米国でさえ、当面は見限り、F15EXという別の、しかも40年も前に開発された戦闘機を選定したのだ。

防衛省が米国から輸入する105機の費用は安く見積もって1兆2000億円とされる。巨額のカネが米側に転がり込めば、トランプ氏の願う、対日貿易赤字の削減になる。そのカネはF35の機体改修の原資として使えるばかりでなく、価格を押し下げる要因にもなるだろう。

トランプ大統領は、米軍がF15EXを導入することを知りながら、F35を日本に売り込むトップセールスを続けたのである。日本は米国にコケにされただけではない。便利な「打ち出の小槌」となめられているのだ。

こんな有り様で、日本政府は日米自由貿易協定がうまくいくと本当に思っているのだろうか。

日本がF35の追加購入を決めた後の今年2月、ドイツ政府はトーネード戦闘機の後継機にF35を選定しないことを決めた。航空自衛隊が不採用としたユーロファイターとF/A18の2機種から選定する。日本政府はドイツ政府に教えを請うところからやり直すべきだろう。