じつは4代目をピークに販売台数は右肩下がりに……

 初代の登場は1957年、現在13代目となる長寿モデルが「スカイライン」だ。かつては日産を代表するスポーツセダンとして大きな存在感を示し、また販売実績でも最盛期には月販1.3万台を超えるなど日産の主力モデルだった。しかし、現在はその影は見るべくもなく月販三桁の前半となってしまっている。それでも日産がスカイラインの名前を守るのには、合理的な理由はあるのだろうか。

 スカイラインは、その車両型式の最初にくるアルファベットから大きく4世代にわけることができる。もともとプリンス自動車(富士精密工業)の主力モデルだった初代と2代目が「S」系、日産とプリンスが合併したのちに生まれた最初のモデルとなる3代目「ハコスカ」から「ジャパン」の愛称で親しまれた5代目までが「C」系。スポーツセダン&クーペとして現在に至る、スカイラインのイメージを色濃くしたのが6代目から10代目までの「R」系。そしてグローバルモデルの日本版として現在の「V」系に至っている。

 もっとも売れていたのは「C」系の時代だが、スカイラインGT-Rの復活などでスポーツイメージを強くしたのは「R」系の頃だろう。鉄仮面と呼ばれた4気筒ターボが印象的な6代目「R30」、セブンスと呼ばれ「GTS-R」も登場した7代目「R31」に続き、GT-Rとともに「R32」、「R33」、「R34」の各モデルがスカイラインらしさを強めていった。そして、ここまでのスカイラインは国内専用モデルだった。日本市場の価値観やマインドに100%合わせたスポーツセダン&クーペとして開発されてきた。

 とはいえ販売実績でいえば着々と数字を落としていたのも事実。ハイソカーに寄った「R31」から「R32」にフルモデルチェンジした際に、「走りのスカイラインが帰ってきた!」と快哉の声をあげたファンも多かったが、「R32」は「R31」の販売実績を超えることはできなかった。じつは「ケンメリ」の愛称で呼ばれた4代目スカイライン(C110)をピークに、その販売実績は右肩下がりだったのだ。

 かつてのビッグネームといえども、そうした状況下では“国内専用モデル”として開発リソースを割くことはできない。そして21世紀の到来とともに新しくなった「V」系のスカイラインは、グローバルモデルの国内仕様として生まれ変わることになった。つまりセダンを中心としてクーペも展開するという点において共通性はあったが、クルマのキャラクターとしては、ずいぶんと変わってしまった。それまでスカイラインのシンボルであり、アイデンティティともいえる直列6気筒エンジンは、V型6気筒エンジンとなった。当初は丸4灯のテールランプも与えられなかった。

日本で展開していないインフィニティ車へ名付けるには最適解

 この時期、スカイラインを販売していた「日産プリンス店」という販売網は「日産レッドステージ」として再編されており、スカイラインの名前を残す必要性もなかったのは事実だが、既存顧客の受け皿としてスカイラインという名前は必要だったのだろう。多数の販売網をいきなりひとつにまとめるのは難しく、もう一方で「日産ブルーステージ」という販売網に整理しており、スカイラインの既存ユーザーが求めるであろう4ドアのFRセダンである「ローレル」はブルーステージの取り扱いだったことも、その理由といえる。

 しかもローレルはV35スカイラインの登場以降も継続生産されていた。もし、1999年から行われた日産販売網の再編が「レッドステージ」と「ブルーステージ」に分けることなく、いきなり統合することができていれば、9代目となる「V35」に「スカイライン」の名前は与えられず、その名前は消滅していたかもしれない。

 そもそも「V」系のスカイラインは、海外では「インフィニティ」ブランドで、「G35」や「Q50」といった車名で販売されている。現行スカイラインは、インフィニティのエンブレムをフロントグリルなどに堂々と掲げるなど脱スカイラインを意識していることが感じられる。仮に、2001年の段階で日産が日本国内においてもインフィニティの販売網を立ち上げていれば、その段階でスカイラインの名前は消え、インフィニティのラインアップとして販売されていたことだろう。

 逆にいえば、インフィニティのミドルサイズセダン&クーペとして開発したモデルを、インフィニティ・ブランドを展開していない日本で売るにあたって、最適な名前として「スカイライン」が選ばれたという見方もできる。

 おそらく日本市場の現状から考えるに、この国でインフィニティ・ブランドを立ち上げることはないだろう。そうなるとインフィニティ向けに開発したモデルを日本で売るには日産の名前を付ける必要がある。まったく新しい名前をつけてブランディングをするというエネルギーがないのであれば、既存の認知されている名前を使うというのが、消極的ではあるが、最適解といえる。そう考えると、「V」系のモデルに「スカイライン」という名前を付けていることは理解できるのではないだろうか。