通路とベッドを隔てる壁もドアもない、ドミトリーホテルのような「開放式」の寝台車。日本ではすでに運転を終了していますが、JR共通の「きっぷのルール」にはいまも存在。しかし、そのルールもあとわずかでなくなります。

営業運転はすでに終了

 ベッドが上下に並ぶ、昔懐かしい「開放式」の寝台車。すでに営業運転を終了していますが、きっぷのルールの上でも姿を消すことになりました。


通路と寝台が壁とドアで仕切られていない開放式の客車2段式B寝台(2007年6月、恵 知仁撮影)。

 JR旅客6社が、きっぷのルールを定めた「旅客営業規則」の一部変更を、2019年3月16日(土)のダイヤ改正にあわせて実施する予定です。JR東海が2月8日(金)に公表した改正内容によると、次の寝台料金を旅客営業規則から削除。これにより、「開放式寝台」の料金設定がなくなります。

●開放式
・A寝台(上段) 9810円
・A寝台(下段) 1万800円
・B寝台(客車2段式) 6480円
・B寝台(客車3段式) 5400円
・B寝台(電車2段式) 6480円
・B寝台(電車3段式、上段と中段) 5400円
・B寝台(電車3段式、下段) 6480円

●個室
・A寝台特別個室(S)の補助寝台 9810円(「カシオペアスイート」は1万3730円)
・B寝台4人用個室「カルテット」 6480円

 寝台車は、通路と寝台が壁とドアで仕切られている「区分式(個室)」のほか、通路との仕切りがない「開放式」があります。ベッドが上下2段、または上中下3段に並び、寝台ごとにカーテンが取り付けられていますが、鍵をかけることはできません。知らない客同士がひとつの大部屋に泊まるようなもので、いうなれば「走るドミトリーホテル」です。

 かつての寝台列車は、構造がシンプルで大勢の人を運べる開放式が主流。個室は一部の車両にしかありませんでしたが、1980年代後半以降はプライバシーを重視する客が増えたこともあり、個室寝台が増えました。

 しかし、寝台列車は昼間の交通機関の高速化などにより利用者が減少。2016年3月には、客車2段式のB寝台を連結していた青森〜札幌間の夜行急行「はまなす」が廃止されたことで、毎日運転の定期列車から開放式の寝台が姿を消しました。

「復活」の可能性はある?

 ただ、旅客営業規則では「はまなす」廃止後も開放式寝台の料金設定が残りました。これは臨時列車や団体列車などで、開放式の寝台車を使うことがあったためです。実際、JR東日本は国鉄時代に製造された583系特急形寝台電車(3段ベッドの開放式寝台)を使い、団体列車として何度か運転しています。


開放式寝台は「はまなす」を最後に定期列車から姿を消した(2004年3月、草町義和撮影)。

 しかし、583系も2017年には老朽化のため運行を終了。新しい開放式寝台車を導入する計画もなく、JRはこれを機に旅客営業規則から開放式の寝台料金に関する条文をすべて削除するといえます。

 2019年2月の時点では、毎日運転されている寝台列車は寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」(東京〜高松・出雲市)だけ。寝台は全て個室で、開放式はありません。開放式寝台に近いカーペット敷きの「ノビノビ座席」はありますが、これは普通車指定席の扱いです。

 一方、豪華寝台列車の「ななつ星in九州」「TRAIN SUITE 四季島(トランスイートしきしま)」「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレスみずかぜ)」がデビューした際は、JRが旅客営業規則を改正し、各列車ごとの個室寝台料金が新たに設定されています。開放式寝台を再び導入する場合も、旅客営業規則を改正して寝台料金を再び設定すればいいわけですから、ルール上なくなったからといって復活の芽がないわけではありません。

 しかし、個室のほうが人気が高いことや、そもそも寝台列車自体が衰退して毎日運転の列車が「サンライズ瀬戸・出雲」だけになっていることを考えると、開放式寝台が復活する可能性は極めて低いといえるでしょう。

 ちなみに、JR西日本が2020年春からの運行を計画している「新たな長距離列車」(6両編成)は、客車2段式のB寝台に近い構造の「フルフラットシート」が2号車と5号車に設けられます。ただし、2018年5月にJR西日本が発表した車内デザインによると、2号車と5号車は「普通車」とされており、きっぷのルール上は「サンライズ」の「ノビノビ座席」と同様、寝台料金は適用されない見込みです。