繁華街をパトロールする警察官(写真:天空のジュピター / PIXTA)

2017年10月から2018年9月までに全国で発生した不審者事案について、出没エリアの近隣に鉄道の駅があったケースを集計したところ、東京都では東武伊勢崎線の梅島駅(足立区)と東京メトロ丸ノ内線の中野新橋駅(中野区)、大阪府では大阪メトロ大国町駅(大阪市浪速区)がそれぞれ最多だったことが、筆者が代表を務める「日本不審者情報センター」の配信情報分析からわかった。

首都圏や中京圏、近畿の主な府県別の最多駅では、このほか神奈川県が登戸駅(川崎市)、埼玉県が北戸田駅(戸田市)、愛知県が上小田井駅(名古屋市)、兵庫県が神戸三宮駅(神戸市)、京都府が桂川駅(京都府)、奈良県が奈良駅(奈良市)だった。

不審者情報の公表が増えた

日本不審者情報センターでは、全国の警察や自治体が公表する不審者情報を独自に編集・配信し、データベース化している。対象となる事案は、声かけ、つきまとい、痴漢、露出、暴行、盗撮、のぞき、危険物所持、下着盗、路上強盗など。車上狙いや空き巣といった「人をターゲットにしていない事案」は対象外だ。

期間内に近隣で10件以上の不審者情報があった全国の駅は179駅で、もっとも多かったのは31件の静岡駅(静岡県)、次いで30件が神戸三宮駅と登戸駅だった。

全国の警察が公表する不審者情報の数は、今年5月に新潟県で女児が誘拐、殺害され線路上に遺棄された事件が発生して以来、急増した。特に子どもを対象にした不審者の情報を積極的に出す傾向が強まり、この事件後は倍近くまで増えた。現在はやや減っているものの、以前と比べれば公表される件数は増えている。

不審者情報の公表は福島県警を除く各都道府県の警察が行っているが、情報公開に積極的かどうかは各警察で大きな違いがある。このため、情報の件数ベースで集計すると、警察が積極的に公表している都道府県の駅が上位に入りやすい。積極的に公表しているのは大阪府警や兵庫県警だ。

昨年までは埼玉県警も積極的で、不審者の出没エリアも細かく公開していたが、残念ながら今年に入って公表件数が減少するとともに、出没エリアについても「〇〇市」レベルの広いエリアになってしまい、情報公開という点では大きく後退した。情報がなければ、住民にとって不審者は見えない存在になってしまう。

日常に潜む不審者の姿は情報によって可視化され、さらに継続的に集計することでその特徴も見えてくる。今回の集計で、東京都内で不審者事案が最も多かった東武伊勢崎線の梅島駅は、昨年12月26日付の記事において「下半身露出」の不審者情報がもっとも多かった駅(6件)として取り上げているが、今回も17件中9件が下半身露出だった。

不審者はどこにでもいる

集計データからは、必ずしも人の多く集まる主要駅周辺だけでなく、意外とも思われるような駅周辺でも不審者の出没があることがわかる。たとえば件数ベースでは6位(23件)のJR御殿場線下土狩駅(静岡県)は、1日の乗車人員が1300人程度の小駅だ。2016年3月に開業したJR仙石線の石巻あゆみ野駅(宮城県)も16件あった。

ただ、これには警察の情報の出し方や、日本不審者情報センターの施設登録の方法も影響している。

下土狩駅の場合、静岡県警は不審者の出没地点を同駅がある「長泉町下土狩」と出す。日本不審者情報センターはこれを受けて出没地点を長泉町下土狩とし、出没地点周辺の主要な公共施設として下土狩駅を登録する。ところが、長泉町下土狩は東西・南北に数キロという広いエリアだ。実際の出没地点は駅から離れていたとしても、集計上は下土狩駅周辺の不審者情報としてカウントすることになる。

今回の記事では出没エリアの近隣施設に駅が含まれる場所を取り上げているが、出没地点の周辺に駅がある場合とない場合はおおむね半々で、都市部の主要駅周辺でも、近くに駅のない農村の集落でも不審者の出没事案は起きている。

不審者が関係する事件などが発生した際、よく聞かれるのが「まさかうちの近所で」といった言葉だ。だが、実際には不審者の出没事案は全国どこでも発生している。「まさかここでは……」と思わず、交通事故がどこでも起こりうるのと同様、不審者はどこにでも現れると思って注意することが重要だ。

そのために重要なのはやはり情報の公開だ。特に、現状では駅や電車内での不審者情報がほとんど出てこない。2013〜2015年に警視庁が検挙した痴漢行為のうち、約82%にあたる3079件は列車内と駅構内で発生していることが筆者の調べで明らかになっている(2016年12月8日付「独自調査、痴漢検挙の82%が鉄道内だった!」)。被害状況を明らかにし対策を講じるうえで、これらの発生情報の公表もぜひ検討してもらいたい。