クルマ関連の店が次々と大型商業施設へ出店しています。カーディーラーだけでなく、カー用品店やレンタカーまでも。路面店よりも店舗の機能が限定されてしまうこともありますが、テナント型の店舗は何が違うのでしょうか?

SC4拠点だけで年間6000〜7000台新車が売れる

 カーディーラーといえば、大きな道路に面した「路面店」のイメージを持つ人もいるかもしれませんが、近年、ショッピングセンター(以下SC)など大型商業施設へテナントとして出店する販売店が増えています。

 なかでもトヨタが早くからSCに進出しており、複数のトヨタ系販売店(ダイハツ含む)がテナントとして入居する「オートモール」を併設したSCが、埼玉、横浜、岐阜、大阪にあります。日産もまた、2016年オープンのららぽーと湘南平塚に同社初となるテナント店舗を開設。2018年3月には、レクサスが東京ミッドタウン日比谷に「LEXUS MEET…HIBIYA」をオープンしました。


複数のトヨタ系販売店が入居する岐阜市の「カラフルタウン岐阜」では、通路にクルマが置かれている(画像:トヨタオートモールクリエイト)。

「SCの店舗は女性のお客様が7割を占めます。路面店の場合、目的を持った男性のお客様が何かのついでにお越しになるケースが多く、平日の訪店客数は10人程度ということもあるかもしれませんが、SCの店舗は平日少ないときでも100人、多いと数千人が来場されます」

 このように話すのは、トヨタ系販売店によるオートモールを運営するトヨタオートモールクリエイト(名古屋市中区)の担当者です。同社によると、上記4拠点のオートモールだけで、年間6000台から7000台の新車を販売し、オイル交換などのメンテナンスは年間15万件にも上るとのこと。SC店舗はふだん路面店に来ない客との接点となるだけでなく、実際に購入に結びつくこともあるようです。

 SCへの出店は、ディーラーだけではありません。カー用品店のオートバックスも2017年から、従来店舗より機能を絞った「オートバックスmini」という新業態を、全国5つのイオンモールで展開。レンタカー大手のニッポンレンタカーもまた、千葉県のイオンモール幕張新都心と、沖縄県のイオンモール沖縄ライカムに出店しています。

「オートバックスmini」を運営するオートバックスセブン(東京都江東区)によると、「車検をお求めのお客様を、車検対応の路面店に送客することが主目的の実験的な業態です」とのこと。来店者の7〜8割はふだんオートバックスを全く利用していない人で、接客してみるとじつは「キャリアを付けてみたい」「タイヤが少し気になる」といった悩みがわかるのだとか。「mini」にはそのような取付が必要な商品は置いていないものの、近隣の店舗へ送客でき、そこから車検へつながるケースもあるといいます。

 ニッポンレンタカーを運営するニッポンレンタカーサービス(東京都千代田区)も、SCへの出店による周知効果に期待を寄せています。SCの店舗を知った人に、「あそこにもあった」という記憶をたどってもらうこともできるので、駅前などにある既存店との相乗効果もあるとのこと。イオンモール幕張新都心の店舗ではマイカーで来店する人が多いこともあり、キャンピングカーや高級車など、個人ではなかなか乗れないクルマを取り揃えているそうです。

トヨタはSCそのものを自前で運営、その戦略とは

 先述の通りトヨタでは、トヨタオートモールクリエイトが全国4つのSCで「オートモール」を運営していますが、そのうち岐阜市の「カラフルタウン岐阜」、横浜市港北区の「トレッサ横浜」は、同社がSC全体を運営・管理しています。なぜ、トヨタがSCを自前で運営しているのでしょうか。SCへの店舗展開について同社に改めて話を聞きました。

――SCの事業へ進出したのはなぜでしょうか?

 1990年代後半くらいから、ディーラーは「敷居が高い」イメージが少しずつ進展し、お客さまに来てもらいにくいという状況でした。そこで、より立ち寄りやすく、ふだんのショッピングの一環でクルマに触れられ、購入、メンテナンスまでできる365日営業の拠点として最初にオープンしたのが、2000(平成12)年の「カラフルタウン岐阜」です、メンテナンスまで担うということは事業として継続性がないといけませんので、独立採算を確保するためにSCの運営から行ったのです。

 その後「トレッサ横浜」をオープンしましたが、埼玉と大阪に関してはそれぞれ、イオンモール(イオン)さんとアリオ(イトーヨーカ堂)さんに出店のお声がけをいただいたことから実現しています。

――路面店とどう違うのでしょうか?

 当社が展開するオートモールは、クルマの販売や点検整備といった基本的な機能は従来型の路面店と同じです。お客様はSCで1日過ごすことができ、お買いものや映画鑑賞のあいだにメンテナンスを済ませてしまうこともできてしまいます。SCの通路に置かれたクルマに触れたり、ドアを開けたり、ご夫婦でクルマの好みを話されたりと、肩ひじを張らず自由にお楽しみいただいています。

――売り上げも好調なようですが、SC店舗ならではのメリットはあるのでしょうか?

 複雑なしかけをしなくてもお客様の訪店頻度を上げることができる点です。ディーラーには7〜8年にいちどしか来ない方もいらっしゃいますが、SCには毎日来る方も少なくありません。訪店サイクルが違うものを複合させ、「行動を起こすもの」を複層にすれば訪店と売り上げにつながるのではないか――このような発想が成立するか否かを4年くらい議論して「カラフルタウン岐阜」をオープンしましたが、おかげ様で18年も継続しています。

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 トヨタオートモールクリエイトの担当者は「思えば1990年代後半から、クルマのコモディティ化が進んでいたのではないでしょうか」と、振り返ります。「コモディティ化」とは、特別なものとされていた商品の価値が下がり、一般的な商品になることです。こうしたこともあり、SCの店舗名には「トヨタ」を一切うたわず、販売チャネルやブランドの垣根も関係ないのだとか。

 そしていま、同社は100年にいちどと言われる自動車業界の変革期を迎え、何ができるかを模索しているそうです。「移動に対するニーズはモノなのか、サービスなのか、はたまた目的地の提供なのか、広大な敷地を持つSCで日々実験しています」と話します。

【画像】ほぼコンビニのような「オートバックスmini」


「オートバックスmini」の店舗イメージ。品揃えは車内の小物や洗車用具が中心で、簡易洗車も頼める。ただしカー用品の取り付け作業などは行わない(画像:オートバックスセブン)。