映画『トップガン2』の主役機がF/A-18E/F「スーパーホーネット」になりそうだということで様々な意見が噴出していますが、でもご安心ください、同機はある意味で「最強」です。そう言えてしまう理由を解説します。

トム・クルーズさん、次は「スーパーホーネット」搭乗か

 戦闘機映画の最高傑作として知られる『トップガン』の続編クランクインか――2018年5月31日、映画俳優のトム・クルーズさんは自身のTwitter公式アカウントにおいて、『トップガン2』の撮影が始まったことを示唆するツイートを行いました。詳細については明らかにされず、ただアメリカ海軍の艦上戦闘機F/A-18E/F「スーパーホーネット」と、旧作の主人公であるコールサイン「マーベリック」らしき人影の写真のみが掲載されました。


ニミッツ級原子力空母「ハリー・S・トルーマン」に着艦するF/A-18F「スーパーホーネット」(画像:アメリカ海軍)。

 旧作で「主役機」を務めた艦上戦闘機F-14「トムキャット」は、すでにアメリカ海軍から全機が退役済みであるため、どうやら今作ではF/A-18E/Fが代役を務めることになりそうです。

 ネットやメディアでは、伝説的な人気を誇るF-14に比べてF/A-18E/Fが見劣りするのではないか、いまさら旧型機を持ち出すのか、という懸念があるようで、さらにはアメリカ海軍をライバル視するアメリカ空軍までが「F-15の方が速い」というツイートを行うなど、はやくも様々な反響を呼んでいるようです。

 そうした少々ネガティブな意見も散見されますが、一方でF/A-18E/F「スーパーホーネット」は、ある意味において最強の艦上戦闘機だと言えます。なぜそう言い切れるのでしょうか。まずは「スーパーホーネット」についてよく言われる誤解から解いておきましょう。

「スーパー」がつかない「ホーネット」は赤の他人!

 F/A-18E/F「スーパーホーネット」は、1970〜80年代に開発されたF/A-18「ホーネット」の改良型ではありません。F/A-18E/Fは名前がたまたまF/A-18と同じであり、たまたま見た目が似ているだけの、完全に新規に設計されたF/A-18とは無関係の戦闘機です。

 なぜこのような複雑怪奇なことになっているのかというと、ソ連崩壊の翌年1992(平成4)年にアメリカ海軍は「F/A-18の改良型」という名目で戦闘機開発予算の議会承認を得るに至ったことに由来します。

 つまり冷戦終結による軍縮が不可避であるなかにあって、まったく新しい「F-24」の開発という名目では、最終的な決定権を有する連邦議会の承認を得られる見通しが小さいという極めて政治的な理由から、単座型をF/A-18E、複座型をF/A-18Fと命名し、新型機であるにも関わらず「F/A-18に似せて設計した」のです。


F/A-18E/F(上の2機)とF-35の米海軍仕様機F-35C。トムさんの例の画像について、「なぜF-35Cじゃないんだ!」という声も上がったという(画像:アメリカ海軍)。

 F/A-18E/Fが最強の艦上戦闘機であるゆえんが「ブリングバック」です。ブリングバックとは直訳すれば「お持ち帰り」という意味であり、兵装を搭載したまま空母へ着艦することを意味します。F/A-18E/Fはこのブリングバック能力がすさまじく高いのです。

 あらゆる飛行機は「最大着陸重量」があらかじめ決まっています。特に極めて狭い飛行甲板に着艦しなくてはならない艦上機においてはこの制限が非常に厳しく、ふつう、戦闘機は一度の出撃ですべての兵装を発射することはないため、旧来の艦上機は搭載した兵装を無駄に投棄しなければ着艦できませんでした。

 ところがF/A-18E/Fの最大着艦重量は約20t。このときF/A-18E/Fは着艦復航(やり直し)に最低限必要な燃料を搭載したうえで、実に4tもの兵装を抱えたままの着艦、すなわちブリングバックが可能なのです。

ブリングバック能力の高さをもって、なぜ最強と言えるのか

 4tのブリングバックとは、227kg誘導爆弾ならば17発分、907kg爆弾なら4発に相当し、通常このような重武装で出撃することはないため、F/A-18E/Fは事実上ほとんど無制限に兵装を搭載したままの着艦が可能です。


原子力空母「ハリー・S・トルーマン」から発艦するF/A-18E「スーパーホーネット」。2018年5月現在、アメリカ海軍とオーストラリア空軍が運用する(画像:アメリカ海軍)。

 従来型のF/A-18のブリングバック能力は1t強にすぎません。F-14は低速から高速まで幅広く効率の良い飛行性能を実現できる「可変後退翼」の効果もあって、かなりブリングバック能力に優れますが、それでも2.5tであり、463kgのフェニックス(ミサイル)を6発に加え+90kgのAIM-9「サイドワインダー」短距離空対空ミサイル2発を搭載するとこれをオーバーしてしまい、発艦は可能であれども1発数億円のフェニックスミサイルを投棄しなければ着艦できません。そのようなわけで、最大携行能力は「核戦争への備え」として封印し、いくつかの実戦投入事例においてフル武装で出撃したことは一度もありませんでした。

 艦上戦闘機は空対空ミサイルや誘導爆弾、または偵察ポッド、搭載するレーダーなどのセンサー類を「任意の地点に運ぶ」ための乗りものです。そして現代戦闘機においては多少の機動性の差はあまり意味がありません。様々な兵装類をほとんど無制限に搭載し、これを持ち帰ることができるF/A-18E/Fは、艦上戦闘機の運用においては世界をリードするアメリカ海軍が誇る、「最強の艦上戦闘機」と呼ぶにふさわしい機種であると言えるのではないでしょうか。

【写真】似てるけど別モノ、F/A-18A「ホーネット」


F/A-18A「ホーネット」。「スーパーホーネット」と異なり、エアインテークの形状が丸っこい(画像:アメリカ海軍)。