クルンと巻いたしっぽと立ち耳が特徴

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 平昌五輪フィギュアスケート女子の金メダリスト、ロシアのアリーナ・ザギトワ選手が、秋田犬保存会からメスの秋田犬を贈呈されたニュースが先日話題となりました。秋田犬をはじめ最近ブームの「和犬」ですが、SNS上などでは「わがまま」「懐きやすくない」「飼いにくい」などのコメントも見受けられます。和犬は本当に懐きにくく、飼いにくい犬種なのでしょうか。オトナンサー編集部では、公益社団法人日本犬保存会の井上実事務局長に聞きました。

縄文時代からの姿を色濃く残す「地犬」の魅力

Q.昨今の和犬ブームの背景について、どのようにお考えですか。

井上さん「近年、秋田犬をはじめとする日本犬が世界的に注目を集めるとともに、人気も高まっています。その理由として、まず容姿の愛くるしさが挙げられます。立ち耳で尾を巻いた犬種は洋犬には少なく、日本犬の特徴と言えます。次に飼育管理しやすい点です。日本犬は飼い主の気持ちをくんで行動し、飼い主との適度な距離感を保てるため、コミュニケーションの取り方が上手です。また、食事の管理やしつけがしやすく、適度な暑さや寒さにも対応できる強じんな体質であることも理由の一つではないでしょうか。日本犬の持つこうした特徴がブームの背景にあると考えます」

井上さん「加えて日本犬には、縄文・弥生時代からの地犬(じいぬ)として体型や容姿を今に伝えているという大きな特徴があります。一般に、同じ種でありながら体型・容姿に多種変異がある生物は犬だけです。犬種の多様さは、人々の生活と共存させるために多様な形質の犬に改良してきたことに由来します。西洋では、犬を人間社会に共存させるため、改良することによってさまざまな犬種が生まれたという歴史的背景があります。しかし日本では、人間社会との共存のために犬を改良しようとする考え方や思想がなかったため、原始の形態や容姿をほぼ変わることなく保つことができたのです。この容姿も日本犬の魅力の一つではないでしょうか」

Q.その他、和犬にはどのような特徴がありますか。

井上さん「洋犬種と日本犬を飼育して感じるのは、日本犬は性格的に独立心のある犬種であるということです。また、日々の動作や仕草に人間の意思を反映させているような面も見られます。日本の気候風土の中で今日まで残されていた犬種のため、環境適性も高く、飼育しやすいことが挙げられます」

Q.和犬は懐きにくい、飼いにくいというのは本当でしょうか。

井上さん「私自身、日本犬も洋犬種も数多く飼育しましたが、日本犬に対し『わがまま』『懐きにくい』『飼いやすい犬種ではない』といった認識はありません。むしろ、犬自身の気持ちを主人に示す仕草は、日本犬の方が上手だと感じます。犬を飼育管理していく際に重要なことは、環境面(犬舎や飼育環境)としつけ(食事、トイレ、呼び戻し、かむ行為など)をどのように行うかということです。これは個々の犬の性格によっても異なりますし、飼育者個々の育て方(技量)によっても変わります。あくまでも飼育者との触れ合いや関わり合い、愛情のかけ方に課題があると思います」

井上さん「飼い主や家族の人たちが、犬に遠慮してわがまま放題にしたことが、飼いにくく感じさせる要因を作っているケースも考えられます。一方で、生後2カ月ごろまで育て上げた日本犬の子犬が新たな飼い主さんの元に引き取られ、1〜2年後に再会した際、犬は普段と異なる仕草や喜び方をするもので、こうした特徴は洋犬種にはあまり見られないようです。いずれにしても、愛情を持ってコミュニケーションを大切にした飼育管理が重要です」

Q.和犬の選び方や飼う時のポイントを教えてください。

井上さん「雄犬は外交的で活動的な面が見られます。雌犬は、穏やかな性格で家庭的な面があるといった言われ方もしますが、性別による大きな違いはあまり見られません。犬は生き物ですから、日々のコミュニケーションや飼育管理の仕方などの触れ合いを通して、性格形成が図られるものです。犬の購入時は、ペットショップや雑誌の広告、ブリーダーへの依頼、日本犬を飼育している方から情報を得るなどさまざまな方法があります。一般商品のように、価格の高いものが良く、安いものは良くないとはいかない面もあります。そして、家族の一員として共に生活するわけですから、家族が気に入った犬を選ぶことも大切です。一般的には、明るい性格で、人間のそばにすぐ駆け寄ってきたり、仲間と活動したりする活発な犬が良いとされています。子犬の時期に警戒心が強かったり、人を見て尻込みしたりするような態度の犬には注意してください。飼育は犬の成長する姿を希望的に想像するとともに、飼い主が理想とする性格になるようなしつけを日々繰り返し心がけ、根気よく取り組むことが大切です。飼い主と犬との関わり方が最も重要であることは、間違いありません」