仕事のイライラや、人間関係のモヤモヤが特になくても、ふとした瞬間に「なんとなく不安」になることはありませんか?

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表の荻野淳也(おぎの・じゅんや)さんに、「マインドフルネスを通じて心を整える方法」について伺ってきたこの企画。最終回は「今、幸せに気づく方法」について教えていただきました。

【第1回】誰かの「自分らしいライフスタイル」に振り回されてない?
【第2回】つい後輩にイライラ…私、思いやり不足?

不満はないけど、なんとなく不安

--読者と話をしていると、「大きな不満はないけれど、5年後、10年後も同じような生活をしている気がして不安」という声を聞くことがあります。つまり、「私はこれでいいのかな」という状態。

荻野淳也さん(以下、荻野):それでは幸せじゃないということですよね? 要するに、小さい満足に満足していて、自分の本当の幸せと向き合っていないということだと思います。

「特に不満はない」というのも、「自分軸」以外のもので考えているのではないでしょうか。「そこそこの年収もあるし、有名企業に勤めているし、人間関係も悪くないし」と。でも、「それが本当に幸せなんですか」と、自分に問い続けたほうがいいです。

--自分に向き合うための方法やツールとして、荻野さんはマインドフルネスの実践を推進していると思うのですが、瞑想以外にも、これをやってみたらというものがあれば教えていただけますか?

荻野:書く瞑想とも言われる、ジャーナリングがいいのではないでしょうか。書くことによって自分の内面に無意識にあるものを言語化していく作業です。

書くマインドフルネスって?

荻野:手順とテーマの例*を紹介します。

<ジャーナリングの手順>
1.紙とペンを用意する
2.テーマについて、できるだけたくさんの事柄を書き出す。(手を動かすことが大事なので、思いつかない時は「書くことがない」と書く)
3.3分、5分、7分など、ある一定時間書き続ける

<テーマの例>
・今日の仕事での気づきや学び
・今日嬉しかったことや感謝したこと
・今日いちばん印象に残ったこと
・今日チャレンジしたこと
・今日思わず笑ったこと
など

*『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』(JMAM)より一部引用

荻野:ルーティンワークとして、「今日」としていますが、「この1年で」とか「人生で」と変えてみても結構です。継続して書いてみると、自分が何に対して感動するとか、何に対して楽しみを発見しているのかわかってきますよ。

せかせかしちゃう人ほど立ち止まる時間を持って

--取材に来る前、ジャーナリングをしてみたのですが、実は書けなかったんですよね。「今日何してたっけ」と何も思い出せなかった。いかに今日とか今に集中できていないか痛感しました。次のこと次のことって、せかせかしているなって反省しました。

荻野:ぜひ立ち止まってください。多くの人が似た状態だと思います。

--多くの人というのは、例えばどのような人たちですか?

荻野:何かを成し遂げたらこうなるという「目標達成中毒」の人たちです。例えば、結婚したら、子どもができたら幸せになれるとか。キャリアで言えば、この会社に転職できたら幸せになれる。でもそんな思考のままでいると、回し車を回すハムスターのように、ずっと走り続けているんだけど、はたと気づけば何も残っていない……ということもあり得る。

--1日の終わりに、「はっ!今日何食べたか覚えてない!」とかですね。

荻野:そうです。大切なのは、何かをしたらどうなるじゃなくて、今に集中して今を味わうことによって、自分の周りに「今」たくさんの幸せが充満していると気づくことです。そうしたら、この瞬間に幸せになれますよね。

--確かに!そんな風に幸せを感じられるようになりた……。はっ! 違う違う。

荻野:そう。「今、思えば、なれる」んです。

--「そうなれたら幸せになれるはず」っていうのは無意識に「そうでない自分」を自己批判しているんですね。これは私の思考のクセで……。習慣って手強い。

荻野:そうそう。みんなそういう思考になっちゃっているんです。

この先の5年我慢するのか、今楽しむのか

荻野:第1回で、「普通は、ある一定のグループの中の普通に過ぎない」とお話ししましたが、何かを達成しないと幸せになれないと思っている人たちに囲まれていたら、それが普通だと感じてしまうわけですよね。

--そうですね。

荻野:でも僕からしてみたら、それは普通じゃない。だって、今幸せになれるんですから。例えば、「5年後にこの仕事でここまで達成したら幸せになれる」というのなら、未達成の状態の5年間は幸せじゃないんですか?という話です。

--自己認識力を高めて、今に集中できるようになれば、その5年間を楽しく過ごすこともできますよね。

荻野:そうです。だからマインドフルネスが大事ということなんです。僕たちはそれぞれ思考のクセ、行動のクセを持っているから日常生活ができているという側面もありますが、その枠に囚われてしまうと思考停止してしまう。

本当はその枠以上の幸せがあるのに、気づかないでいるといつの間にか5年経ち、10年経ち、「あれ、この10年何してたんだっけ」となるわけです。だから気づく力を高めるトレーニングをしましょうということ。この機会にぜひ、いったん立ち止まって自分の幸せについて向き合ってほしいなと思います。

(取材・文:ウートピ編集部・安次富陽子、撮影:青木勇太)