日本でブルーナンバーの業務窓口となっている日本トレースブルー合同会社(東京都渋谷区)の岡田美穂代表は「調達先の労働者の不満を見抜ける可能性がある」と話す。

 IDは調達先の従業員にも付与できる。従業員が賃金や勤務時間の情報を入力すれば、大企業は「(調達先が)低賃金、長時間労働時間を強制している」といった情報が得られる。大企業は取引額と付き合わせて、調達先が“ブラック企業”か判断できる。

 過酷な労働環境は、不正の土壌を生む。調達先で手抜き作業が横行し、最終製品が市場で品質問題を起こせば、大企業も損失を被る。過酷な労働実態が明らかになるだけでもダメージだ。実際、海外では有名アパレルや電子機器の生産委託先による長時間労働の強制などが社会問題となっている。途上国へサプライチェーンが広がり、調達先の現地監査が難しくなっている日本企業も、突然に信頼が失墜する危険性がある。

 不買運動などに発展して“炎上”する前に、労働者の不満を察知することがリスク回避となる。岡田代表は「ブルーナンバーは改善のメカニズム。問題が大きくなる前に調達先へアドバイスができる」と話す。

 調達先も自ら情報を発信し、透明性を示すことで新規取引先を増やす機会となる。12月初旬時点での登録ID数は1年前の6倍の6000件に増えた。アパレル会社の生産委託先が集積するバングラデシュだけで1万件が追加される予定だ。

 日本では売上高至上主義、納期厳守といった圧力が、不正を生む土壌となっていると指摘されている。経営陣が短期の利益を追求するあまり、現場が無理をして不正を始めるとの意見も聞かれる。いち早く異変に気づき、改善していく仕組みをどう構築するか、経営の姿勢が問われている。
(文=松木喬、梶原洵子)