退場者が出ていなければ......。そう感じたサッカーファンは、少なくなかったはずだ。

 2月14日に行なわれたアーセナル(3位)対レスター・シティ(1位)の頂上決戦。緊張感あふれる好ゲームになったが、54分に起きたDFダニー・シンプソン(レスター)の退場処分が転機となった。

 それまでは、レスターが1−0でリード。しかし、シンプソンの退場から形勢が逆転し、防戦一方となったレスターは後半ロスタイムに逆転ゴールを許した。勝負の世界に「たら・れば」は禁物だが、主審が厳しい判定で2枚目の警告を出していなければ、結果はまた違っていたかもしれない。レスターにとっては悔やまれる退場処分――そして敗戦だった。

 退場の影響を受けたのは、岡崎慎司も一緒である。ひとり少なくなったことで、戦術的理由から61分に交代。劇的な逆転弾を許しての敗戦について、「チームに響くと思うが......」と認めながらも、前向きに言葉をつないだ。

「(次の試合まで)2週間空くので、忘れられると思う。もう1回、ここからスタートできる。ここで負けたのは、正直そんなに問題ではない。次(第27節・ノリッジ戦)の試合のほうが大事かなと。リバプール、マンチェスター・シティ、アーセナルとの3戦のどこかで、負けや引き分けがあると思っていた。この3試合で勝ち点5を取れればと考えていたけど、実際は6ポイント取れたんですから」

 とはいえ、アーセナルのうまさと速さに舌を巻いたことも事実だった。

「アーセナル、うまかったですね。そんなにシュートを打たずに、最後までつないでくる。(MFアレックス・)オックスレイド=チェンバレンみたいに強引に仕掛けてくる奴がいれば、(MFメスト・)エジルみたいにフラフラしながらパスを出す選手もいる。バランスがいいですよね。総合的に見て、自分たちより上だった」

 アーセナルの素早い攻めに押し込まれ、2トップの一角として先発した岡崎も、守備に回らざるを得ない場面が多かった。実際、岡崎の守備は効いていた。セントラルMFのアーロン・ラムジーにプレスバックしてボールを奪えば、サイドまで流れて敵のサイドバックにも寄せに行く。「強い相手になると、ボール回しがうまい。俺が(MFダニー・)ドリンクウォーターや(MFエンゴロ・)カンテのフォローに行くことで、ボールも取れていた」と岡崎が言うように、守備での貢献は光っていた。

 だが、日本代表FWは昨年末から、「ゴール奪取」にプライオリティを置いている。この試合も、本人としてはゴールが欲しかった。一方で、プレスやチェイシングがチームを支えていたことも事実。プレーをゴールに傾けるのか、それとも守備を念頭に置くのか――。このあたりのバランスの難しさについて、岡崎は次のように語る。

「守備? やることはやるんですけど、(あくまでも守備は)意識を持つだけですね。それだけで満足していたら、いつでも監督に代えられてしまう。献身的に動くのは生き抜くためには大事になるが、自分の武器ではない。武器にしてしまうと......献身的な動きは、やればみんなできてしまう。

 ただ、『献身的』と言われるまでにハードワークをしないと試合に出られないから、自分はやっているだけです。海外でやってきて、『献身性』という言葉ほど、危険で甘いものはない(苦笑)。監督から、『お前いいぞ!』と言われていても、点が獲れてないと、何度も代えられてきたし。『あ、これは褒め言葉じゃない。危険信号』というか。俺はもっと違うところで認められないと。

 俺の場合はゴール。結果で認めさせるしか、自分の立ち位置を変えることはできない。だから、今日みたいなビッグマッチでゴールを決めたかった。(リバプール、マンチェスター・C、アーセナルと続いた)この3試合、ずっとゴールを目指していた。獲れなかったら、試合に出られなくてもいい。まあ、よくはないんですが、そのぐらいの意気込みで試合に入った」

 だが、結果を言えば、岡崎はシュートを打てなかった。「自分の欲しい場所にボールが欲しかった」と、試合展開の難しさを嘆(なげ)いたが、「ハイレベルになると、それを考える余裕もなくなってくるのは、まだまだ自分の実力不足」と、反省も口にした。強豪相手とのビッグマッチでは守勢に回ることが多いだけに、岡崎としては今後に向けて課題の残る一戦となった。

 ただ、「守備は頭に入れていなくてもできるので、ほとんど攻撃のことしか考えていない」との言葉から、岡崎の頭のよさを改めて感じた。

 自陣まで引いて味方をサポートするか、あるいは前からガツガツとプレスに行くか――。そのあたりの状況判断がいつも的確で、迷いや誤りが一切見られないからだ。試合と周囲の状況が、正確に見えている証拠だろう。報道によれば、日本代表のヴァヒド・ハリルホジッチ監督が「あれほどチームのために働くFWはいない」と語ったらしいが、アーセナル戦の岡崎は、まさにその言葉どおりの動きを見せていた。

 だが、それだけで満足はしない。「ゴールを獲る部分で認められたい。ゴールを獲らなきゃ、もうひとつ上のレベルには行けない。そこに行きたいですね」と岡崎は語る。

 前線からの守備は、できて当たり前。さらに、ゴールを挙げることで付加価値をつけていく――。岡崎慎司は、そんな青写真を描いている。

田嶋コウスケ●取材・文 text by Tajima Kosuke