マインツドルトムント。中堅クラブと復活へ道半ばの強豪の対戦という以上に注目度の高かった一戦は、2−0でドルトムントが勝利を収めた。

 この試合、ドイツ国内では、今季からドルトムントの指揮をとるトゥヘル監督の古巣との対戦ということで注目を集めていた。振り返ればトゥヘルがマインツを去った経緯も複雑だった。13〜14シーズンを終えて監督を辞したものの、14〜15シーズンはマインツに籍を残したまま、つまり他のクラブでは仕事ができない状態で1シーズンを過ごした。

 今季からドルトムントの監督に就任したのは、昨季半ばでクロップ前監督が辞意を表明し、後継者に指名されたから。マインツからドルトムントへという流れもクロップと同じだ。だが、この"移籍"を、マインツのシュトゥルツ会長は不快に思っている旨の発言をしている。「彼の退団はボーダーラインだった」と、まるで何かに違反したかのようなコメントに、ドイツメディアは騒然とした。トゥヘル自身は「マインツに戻るのは悪い気持ちはしない」と言うに留まった。

 そして日本人という観点からは、香川真司武藤嘉紀の初対戦に注目が集まった。普段の倍以上の日本メディアが取材に訪れた。「すごいね、武藤効果って」と、香川が軽口を叩くほどの光景は、日本国内での関心の高さを意味していた。

 試合後に香川は武藤に関してこう話している。

「(マインツ)すごい良かったですよ。フィジカル的なところも、うちの2CBも強いのに戦えていたので、脅威に感じてた。前半あそこ(前半6分の絶好機)で外してくれたのは、俺らとしては大きかったです。でもこういうサッカーをしてたら、必ず得点は量産するんじゃないかと思います」

 勝利の余裕もあったのだろうが、期待を込めた暖かいコメントを送った。

 結果的にはドルトムントが勝利したが、試合内容はマインツが上回っていた。試合立ち上がりから、前線からの速いプレッシャーでドルトムントをかく乱。特に最前線でスピードとスタミナを持って相手を追い回す武藤に、フンメルスもソクラティスもいらつくシーンが多く見られた。ドルトムントは今季のサッカーのベースであるポゼッションが難しくなり「割り切った」カウンターに打ってでた。落ち着かない試合展開の中できっちり勝ってみせたところが、直近の4試合とは大きく違った。

 前半6分、マインツの最初のチャンスは武藤のシュートだった。左からのグラウンダーのクロスがゴール前に入ると、フリーで走り込んだ武藤がダイレクトでシュート。わずかにタイミングが合わず、GKに阻まれた。香川が「外してくれて良かった」と苦笑いしたシーンだ。決まっていれば試合の流れは大きく変わったはず。

 外した当の本人は、このワンシーンから課題を抽出する。

「自分的にもう少し前にボールが来てくれれば最高だったんですけど、マイナスになってしまってうまく当てることができなくて......。だけどそういうズレは絶対に生じますし、すべてがすべて、思い通りのところにボールが来るわけではないので、やっぱりFWとして決め切れるようにしていかないといけないと思います」

 前半18分にドルトムントのロイスが先制点を決めても、マインツのプレッシャーの手は緩まない。後半37分にミキタリアンが追加点を決めて試合が決まるまで、試合は終始マインツのペースで進んだ。

 香川は語る。

「すごかったですね。すごく難しい試合でしたけど、何より先制点は大きかったですし、あとは最後のところでしっかりみんなが体を張って守ってくれていた。良いゲームではなかったですけど、しっかりと勝てたことがなにより良かったと思います」

 武藤は冷静にチームの現状を把握していた。

「前半いい立ち上がりをして、その中で相手に簡単に失点をして許してしまう。今のマインツは強い相手に対していい試合はしてるけど、最終的に結果は相手のほうが上回っているということがほとんど。そこをどうにか我慢して、自分自身もああいうチャンスをしっかり決め切って、勝ち切っていかないと勝ち点は伸びていかないと思います。連勝というのがチームの勢いをつけると思うので、1試合勝って1試合負けてというのが続いてしまうと、チームとしても良い流れにもっていけないんじゃないかなと思います」

 ドルトムントはこれでほっと一息。来週のヨーロッパリーグ、FKガバラ(アゼルバイジャン)戦でサブ組も試しながら、リーグ戦ではバイエルンに引き離されないようにするだけだ。

 一方マインツも敗れはしたが、ドルトムント相手ではある程度、計算のうちだろう。内容の良いうちに、勝ち点3を重ねていきたいところだ。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko