問題の「全裸ポスター」の一部(当該候補のウェブサイトより)

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【朝倉秀雄の永田町炎上】

 地方自治体の首長や地方議員を選ぶ、4年に一度の統一地方選の季節が到来している。

 統一地方選は二度に分かれ、今回は知事や政令指定都市の首長や議員を選ぶ前半戦は4月12日、その他の市町村の首長や議員を選ぶ後半戦は同26日がそれぞれ投票日となった。

 そんななかで、東京都心に「裸の選挙ポスター」が掲示された件が話題を集めている。問題のポスターは、千代田区の区議会選挙に出馬した無所属・新人候補のもの。背景には旭日旗のような模様が描かれ、その真ん中に、局部こそ見えないものの「ほぼ全裸」の候補者が日本刀を片手にした大仰なポーズを取って立っている。

 あの“号泣議員”こと野々村竜太郎氏や、無料通話アプリLINEで中学生とやりあった元大阪府議の例を挙げるまでもなく、地方議員(件の全裸ポスター候補は、まだ「議員」の立場ではないが……)には思わず首を傾げたくなる人物が多いことは確か。総じて「レベル」が低く、公人としての資質に著しく欠ける者や、私腹を肥やしたいだけの「政治ゴロ」のような輩がひしめき合っているのも事実なのである。

マスコミの監視が届きにくく「やりたい放題」

 メディアはたとえ政治家が不祥事を引き起こしても、国会議員--それも閣僚クラスの「大物」でないとめったに取り上げない。知名度のない地方議員が何かとんでもないことをしでかしても、読者や視聴者の関心を惹かないからだ。だが、カネへの汚い執着や利権漁りの度合いでは、むしろ地方議員のほうがはるかに露骨である。

 議院内閣制ではなく、大統領型を採る地方自治体では、議員は何期当選しようが首長にも副知事にも副市長にもなれないから、政策能力などまったく必要がない。与党議員の多くは議会の質問原稿さえ答弁する側の執行部(知事部局など)の職員に書かせている始末だ。

 しかも、地方議会は年4回。県議会が2月、6月、9月、12月だ。会期は予算を審議する定例会でもせいぜい1カ月程度だから、それ以外の時期は暇を持て余している。

 暇な者ほど「悪事」を思いつくのが世の常で、立場を利用して利権を漁る以外にやることがない。そんなわけで、共産党以外の多くの地方議員が県庁や市役所の庁内をクンクンと鼻を鳴らしながら、まるで猟犬のように徘徊している。そうして利権の匂いを嗅ぎつけるや、自分の息のかかった業者の便宜を図り、その見返りとして「裏献金」という名の報酬を巻き上げようと躍起になる。--まさしく「議員バッジをつけた政治ゴロ」と言ってよいだろう。

 筆者も、政策秘書になる前は千葉県庁の役人としておもに大規模開発の許認可を担当していたが、県議たちが私利私欲のために押しつけてくる「できないものでも何とかしろ」などという傍若無人な要求には閉口させられたものである。

カネ儲けの巧みさは国会議員以上

 利権のネタというのは現実には、国よりもむしろ自治体のほうに多く転がっているものだ。国直轄のダム建設などは、事業規模は莫大だが、派閥領袖クラスの超大物でもない限り、ちょっかいを出すには荷が重すぎる。

 それよりも、自治体所轄の県市道の修復、公園建設、下水道整備、開発行為や農地転用の許可などといった“手軽”なもののほうがカネを儲けるには手っ取り早いのである。地方議員のほうが「旨味」にありつく機会が多いというわけだ。

 自治体の幹部職員は国会議員から議会で意地悪な質問を受けることも、人事に口を挟まれることもないから、存在としてはやはり県議会議員のほうが恐ろしい。だから、自治体の幹部職員たちはひたすら県議や市議の顔色をうかがい、顔を立てることで出世しようとする構図ができあがってしまっている。まさに、日本の地方行政の病巣である。

税金を延滞した上「一部帳消し」にした議員も

 では、どんな連中が地方議員になるのであろうか。ここで地方議員たちの人物像に迫ってみよう。

 人間は誰しも、小金が貯まると「名誉」が欲しくなる。その早道は地方議員になることだ。県議や市議といえど、政治家の端くれだから、周りからは「センセイ」と呼ばれていい気分になれるし、土地の「顔役」として振舞うこともできる。うまく立ち回れば、思わぬ利権にありつくこともできる。そんなわけで、あまり教養水準が高くなく、大きな顔をしてみたいような人間が議員になりたがる。

 そんな連中が一度、権力を手にすれば、欲望の赴くままに業者と癒着し、役所に圧力をかけてカネにしようと奔放しようとするのは当然の成り行きだ。そもそも「遵法精神をもて」というほうが無理である。

 筆者がかつて世話になった千葉県には、市県民税を12年間、3000万円も滞納し、親戚筋の千葉市納税課長を使って延滞金1億2000万円のうち3000万円を棒引きさせ、背任罪で逮捕された議員もいた。「千葉県政のドン」などと呼ばれていたが、彼などはゴロツキ議員の典型であろう。

一人あたり1000万円の高報酬と「政務活動費」

 フザけているのは、1年の大半は遊んでいるか利権漁りに明け暮れている連中に、自治体の部課長など幹部職員並みの議員報酬が支払われていることだ。東京や政令指定都市などでは、一人あたり年間1000万円を超えている。

 これに「政務活動費」まで加わるのだから、まさに「泥棒に追い銭」だ。

 ここで、過去のマスコミ報道から「政務活動費」が実際に何に使われているのかを見ておこう。私物の購入費や私的旅行、忘新年会費用などへの流用が指摘されるのはよくある例で、ボクシング観戦費(長野県議の例)、官能小説購入費(福岡県議の例)、ポルノ購入費(東京都23区の区議の例)といった使途まで明らかになっているのだから、まったく呆れた話だ。

 ちなみに、埼玉県議会では、政務活動費を使った東南アジア買春旅行をした3名の県議がそろって議長になっている。

 市議には政務活動費を買春や山中温泉でのお座敷ストリップ鑑賞や「ワカメ酒」に使う不埒者もいるし、2005年には茨城県の鉾田市の6名の市議会議員が政務活動費を使った視察旅行で女性添乗員に抱きつくなどのセクハラ事件を引き起こし、うち1名が議員辞職している。

 このように政務活動費にまつわる不祥事は枚挙に暇がない。ときどき、市民オンブズマンなどの槍玉に挙げられるが、生来、厚顔無恥にして無頼の徒でもある地方議員には「馬の耳に念仏」といったところであろう。

地方選は中央以上に有権者の関心薄く……

 地方選への有権者の関心は薄く、先の千葉県議選などはわずか37%の投票率(全国最低)。全国でも2割以上が無投票だ。議会運営を見ても、何十年も一般質問なし、否決も修正もなしというところが多く、これでは議会が存在する意味がないことにさえなる。

 にもかかわらず、法外な報酬を受け取り、おまけに政務活動費や日当まで加わるのだから、税金の無駄使い以外の何物でもない。なお、アメリカやヨーロッパの先進国では地方議員はほとんどボランティアで、交通費など実費しか支給されないのが普通である。

朝倉秀雄(あさくらひでお)ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中