学生の窓口編集部

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和食らしいメニューのひとつである「茶碗蒸し」。旬の具材となめらかな舌触りが魅力で、定食についてくると「ラッキー!」と思うひとも多いだろう。

鍋や天ぷらで人気のマイタケは、タンパク質を分解する酵素を持っているので茶碗蒸しの具には使えず、作ろうとしても卵スープができあがってしまう。デザートの定番・ゼリーも同様にたんぱく質が利用されているので、キウイやパイナップルを大量に入れると、固まらずにフルーツ・ジュースになってしまうのだ。

■マイタケの酵素が卵を変える

茶碗蒸しのベースは卵と出汁(だし)で、器に入れて加熱するとプリンのように固まる。これは卵に含まれたタンパク質が熱によって変性(へんせい)するためで、ゆで卵と同じメカニズムだ。卵以外のタンパク質でも熱変成するものは多く、ホット・ミルクを作るさいに表面にできる「膜」も熱変成によるものだ。

多くのタンパク質は、一度固まってしまうと冷やしてももとの性質を取り戻すことはできない。料理ならそれでも構わないだろうが、ヒトの身体でも同じことが起きる。多くの体温計は目盛りが42℃前後までしかないのもこれが理由で、これ以上になると熱変成が起こり、生存できる見込みがないからだ。

茶碗蒸しの「具」にはギンナンやシイタケが使われることが多く、エビやカキなどの変わり種も見かける。ところが、天ぷらや炊き込みごはんでおいしいマイタケを入れると、蒸しても固まらず卵スープ状態になってしまうのだ。

これはマイタケにはプロテアーゼやアミノペプチダーゼなどのタンパク質分解酵素が含まれているためで、卵に含まれるタンパク質を変えてしまい、加熱しても固まらなくなってしまう。少量ながらブナシメジやヒラタケにも含まれているので、卵料理には不向きな素材ともいえよう。

どうしてもマイタケの茶碗蒸しが食べたい!ひとは、マイタケをゆでてから使えばOKで、熱によって酵素が無力化され、卵に影響しなくなるのだ。

■ゼリーの正体は「コラーゲン」

フルーツとの組み合わせが定番のゼリーも、不向きな果物がある。パパイヤやマンゴーをたくさん入れると、茶碗蒸しと同様に固まらなくなってしまうのだ。

ゼリーに使われるゼラチンの正体は、美容の話題で登場する「コラーゲン」で、つまりは動物性のタンパク質である。「煮こごり」も同じで、温めると液体に、冷やすと固まるを繰り返す。

代表的な果物と、タンパク質分解酵素をあげると、

・パイナップル … ブロメリン

・キウイフルーツ … アクチニジン
などで、総称してプロテアーゼと呼ばれることもあり、ゼラチンのタンパク質を固まらない/固まりにくいように変えてしまうのだ。

マイタケと同様に、ゼラチンを加える前にフルーツを加熱しておけば、酵素の働きが薄れて固まりやすくなる。缶詰なら熱処理されたものが多いのでそのまま使ってもOKだ。パパイヤにも酵素・パパインが含まれているが、熟したパパイヤにはあまり多くは含まれていないので、さほど神経質にならなくても良いだろう。

「濃厚」「具だくさん」と称したフルーツゼリーはどうやって作るのか? ゼリー=ゼラチンと思い込みやすいが、市販のゼリーの多くはゼラチンの代わりに「ゲル化剤」が使われているので、酵素の問題が起きにくいのだ。

ゼラチンがあまり使われなくなった理由は、

・温度管理が難しい

・動物性タンパク質なので、アレルギーを起こす可能性がある

と、どちらも大人の事情。気軽に食べられるのは有り難いが、ゼリーではなく「フルーツ・ゲル」と聞くと、なにを食べているのかフシギな気分になる。

■まとめ

・マイタケにはタンパク質分解酵素があり、茶碗蒸しが固まらない

・パイナップルやキウイにも同様の酵素があり、ゼラチンが固まりにくい

・市販のゼリーの多くは、ゼラチンの代わりにゲル化剤が使われている

(関口 寿/ガリレオワークス)