『福島のおきて フクシマを楽しむための51のおきて』(編者:福島県地位向上委員会 、構成:オグマナオト/アース・スター エンターテイメント)

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生まれも育ちも宮城県仙台市。でも、父親が福島県会津若松出身で、盆暮れ正月は会津にある祖父の家で過ごした。小学校の遠足は旧・常磐ハワイアンセンター(現・スパリゾートハワイアンズ)だし、修学旅行も福島。父親に教えこまれた民謡「会津磐梯山」は今もソラで歌える。

そんな私にとって、福島県の生活習慣や名物、気質などを集めた『福島のおきて』は、なつかしい“あるあるネタ”が盛りだくさんな一冊だった。祖父の家には【福島のおきて22:実家には「赤べこ」「起き上がり小法師」「三春駒」のどれかがある】どころか全部あった。生まれて初めて買ったレコードは【福島のおきて30:福島県のアイドル的存在「白虎隊」】に登場する年末時代劇の主題歌、堀内孝雄が歌う『愛しき日々』のシングルだったなどという、どうでもいい記憶までよみがえる。お年玉握りしめてレコード店に直行しましたっけね……。

この本を読んで初めて知ったこともたくさんあった。
【福島のおきて31:「ウルトラマン」はもう福島県民ってことにしたい】によると、ウルトラマンの生みの親であり、特撮の神様と呼ばれた円谷英二監督は福島県須賀川市出身。“須賀川市のウルトラマンへの傾倒っぷりはすさまじい”が、他の市町村や県の主要スポットも負けてない。福島空港でもウルトラマンが活躍しているという。福島空港のサイトを見て、驚いた。

“福島空港には毎月、ウルトラヒーローがやってくるよ!
大好きなウルトラヒーローが来る日をチェックして、福島空港に会いに行こう!”
(福島空港ウルトライベント情報より)

ものすごく本気だ。国内線チケットロビーには実際の撮影で使用された特捜車両ゼレットがウルトラマンダイナとともに展示され、2F国内線出発ロビーには高さ3mを超えるウルトラマンがそびえたつ。窓にはウルトラマンや怪獣のシルエット。ハンドルを回すとウルトラマンがバルタン星人にスペシウム光線を発射する「手回し発電体験模型」もある。

ウルトラマンメビウスとウルトラマンガイアが握手・撮影会をしたかと思えば、ウルトラマンダイナが空港内をパトロール。ウルトラの母とブースコ(怪獣ブースカの彼女)まで遊びにくる。謎のウルトラ女子会!

しかも、【福島のおきて21:県民に愛される2大地方新聞「福島民報」と「福島民友」】が揃って報じたニュースによると「県は、福島空港の愛称を『ウルトラマン空港』とする方向で検討に入る」らしい。マジか! 本書の“もうなんなら「ウルトラマン空港」に正式に名前を変えてしまってもいいんじゃないだろうか?”という提言がまさか実現しちゃうのか。

震災から3年9カ月。福島は地元ではないけど、準・地元ぐらいには近い場所だったはずなのに、名前を口にするのを躊躇することもある。話題にする相手を無意識に選んでいる自覚もある。誰かを傷つけたり、傷つけられるぐらいなら黙っていたいという気持ちは今も消化しきれていない。

でも、この本は底抜けに楽しかった。

【福島のおきて43:泳ぎに行くのは海ではなく「猪苗代湖」】よろしく、「海水浴に行くぞ!」と猪苗代湖に向かう父親に「海じゃないよ!!!」と異議をとなえ、ゲラゲラ笑い合った楽しさが、そこかしこにある。ページを開けば「掃除にひざ当て」「朝から喜多方ラーメン」「東北のウィーン」とツッコミどころ満載。読めば読むほどじんわりおかしい。

“重たい現実は今日も明日も、これから先も続いてく”なんてことは百も承知で【福島のおきて51:それでも福島は「ラッキーアイランド」で「ハッピーアイランド」だ】と言い切るこの本が一人でも多くの人に届きますように。
(島影真奈美)