第19回文学フリマでのエキレビライターの“収穫”
上は『空飛ぶ円盤最後の夜に』、下は左から『CoiCoi』『ゴミ』『賢人支配の砂漠』

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去る11月24日、東京流通センターにて「第19回文学フリマ」が開催された。今回もサークル参加した私は、久々に会場でコピー誌を販売しようと作業に着手したところ、まさかの当日朝まで作業が終わらないというドツボにハマってしまった。早朝に品川の24時間営業のコピー屋で印刷し、それからホテルに戻りチェックアウトぎりぎりまでかかって製本してどうにか間に合ったとはいえ、やっぱり会場には余裕をもって入るべきだなと反省……。

そんなありさまで、個人的にはバタバタしながらの参加となった今回の文学フリマ。徹夜明けで前半こそ眠気がなかなかとれなかったものの、各サークルを回っていたら、いつもどおり色々と収獲もあった。エキレビでは文フリ開催のたびに、各ライターが会場で買った本のなかからこれぞという本を紹介している。今回はとみさわ昭仁さんとtk_zombieさんの推薦本とあわせて、私からも何冊かとりあげたい(以下、紹介文にはそれぞれ冒頭に本のタイトルと、カッコ内に販売していたサークル名もしくは出店者名を示した)。

■『空飛ぶ円盤最後の夜に』(Spファイル友の会) 推薦者:とみさわ昭仁
今回は自分も新刊を作って出展したが、それを売ることよりもこの『空飛ぶ円盤最後の夜に』という本を確実に入手するためだけに文学フリマへ参加したといっても過言ではない。副題に「何かが空を飛んでいるファンブック」とあるように、これは昨年11月に復刊されたUFO現象や神秘体験を論じた稲生平太郎の名著『何かが空を飛んでいる』(国書刊行会)のサブテキストだ。様々な側面から『何かが〜』の解題を試みているが、なかでも圧巻は15,000文字以上に及ぶ稲生氏本人へのインタビュー。詩人志望だった10代の頃の話や、京大ミステリ研に在籍していた過去、各種の執筆活動のこと、そして人はなぜ他界に魅せられるのか。とかく興味は尽きない。

■『ゴミ』(ゴミ作り) 推薦者:tk_zombie
平山夢明ロングインタビュー目当てで買ったところ、うろ覚えでゾンビを描くコーナー、豚や人面瘡をテーマにしたマンガや映画のレビューなど大変自分好みで大当たりでした。すばらしい内容にも関わらず、買うときには「ゴミください」と言わなければならないところもすばらしかったです。

■『CoiCoi』vol.1(coicoi) 推薦者:近藤正高(以下同)
今年の新語・流行語大賞のベストテンにも入った「カープ女子」。もはやいうまでもなく広島カープを応援する女の子のことだが、文フリにも「カープに恋するすべての女子へ」とのサブタイトルを掲げた本が登場した。が、読んでみたら、女の子が市ヶ谷の釣り堀で鯉を釣ってたり、赤羽で鯉料理を食べられるお店が紹介されていたり……って、そっちの(というか本来の意味での)カープの本か!

編集後記によれば、本書を企画・編集・執筆した寺門常幸さんは大の広島カープファンとのこと。この本をつくったのは、《「カープ女子」が流行っているなら、それを揶揄して「鯉女子」を有名にしたいとおもった。それだけの理由》というのだが、いや、そのアイデアをいざ実行に移し、しかも出てくる女の子も含め、これだけのクオリティで完成させたのは見事。巻末の「目から鱗の鯉にまつわる音楽、映画、本etc…」も、1ページながら「え、この作品にも鯉が!?」と色々と発見があった。中沢啓治の『はだしのゲン』に発足まもない広島カープが出てきたことは覚えていた私も、主人公のゲンが病気の母親に食べさせようと、他人の家から鯉を盗もうとするエピソードはすっかり忘れていたなあ。まさに目から鱗。ハッ、鯉だけに鱗なのか。なお来年発売予定の次号では、鯉女子が鯉のぼり職人のもとをたずねる企画を予定しているとか。

特定の動物をフィーチャーした冊子の先行例としては、前回、とみさわ昭仁さんが紹介していたカラスの本『CROW'S』(カラス友の会)がある。今回の文フリで発売されたVol.2では、読者投稿による「みんなのカラス写真アワード」のほか、世田谷区の烏山地域のご当地キャラ「からぴょん」をとりあげた記事がとくに面白かった。この「からぴょん」、企画段階からカラスの生態を研究しながらキャラ設定をしたという。ご当地キャラで、かわいさだけでなく、ここまでリアリティを追求したものは珍しいかも。

■『賢人支配の砂漠』(高森純一郎)
ブースで薦められるがままに買って読んでみたら、予想以上に面白かったのがこの本。アラブ首長国連邦のドバイに赴任した在日韓国人三世の研究者の視点から描いた創作小説である。ドバイの都市の風景や、研究者夫妻の出会う人々との会話など、とにかくそのディテールに圧倒され、物語に引き込まれてしまう。著者の高森純一郎さんは東アジア政治の研究者だと知って、その内容の濃さに納得。今回買ったのは新刊のこの1冊だけだが、高森さんには本作以外にもアジアを舞台にした小説がいくつかあるというので、そちらも読みたくなった。

国際政治関連では、tk_zombieさんも寄稿している『ボンクララ』vol.8(bnkr)の特集がプーチンだった。これまでカレーやゾンビといった特集を組んできた同誌だが、今回はロシアの現大統領を題材にしつつ、「プーチンズ」と題する学園小説(作者は星野トレン太さん)があったりと、そのアプローチのしかたはバラエティ豊か。しかし国際政治をテーマにした創作本は、意外と鉱脈のような気もする。

今回の文フリでは、長らく気になっていた『成年男子のための『赤毛のアン』入門』(文芸同志会)も、朝ドラ『花子とアン』の放送のおかげか増刷がかかっており、ようやく入手することができた。主人公のアンではなく、マシュウとマリラの兄妹の立場から見た『赤毛のアン』論は新鮮だった。

さて、会場の流通センターへはモノレールを使う参加者が多いことだろうが、今回大森に宿泊した私は、路線バスに乗って出かけた。行く途中、さすが港湾部とあって「倉庫センター」という名前の停留所を通るなど新たな発見もあり、なかなか面白かった。せっかくなので帰りもバスに乗って、JR大森駅近くの飲み屋でサークル仲間と打ち上げをすることに。これが結構いい店が見つかり、満足して帰宅の途につけた。文フリのあとモノレールで都心に戻って打ち上げというのもいいけれど、参加者のみなさんには、たまには会場の近場でお店を探してみることもおすすめしたい。

来年、2015年は、4月19日(日)に第1回文学フリマ金沢、5月4日(月・祝)に第20回文学フリマ東京(この回から東京開催の文フリでは名称に「東京」がつくことになった)、9月20日(日)に第3回文学フリマ大阪と、すでに各地での開催が決まっている。さらに11月にも、日にちは未定ながら東京での文フリ開催が予定されている。このうち金沢での開催は、前月に北陸新幹線が延伸開業することに加え、泉鏡花や五木寛之など文学にもゆかりの深い土地だけにどんなものになるのか、いまから気になるところだ。
(近藤正高)