復帰した遠藤をはじめ、ザッケローニ体制の中心メンバーは多少配置が変わっても阿吽の呼吸で連動していった。(C) SOCCER DIGEST

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 約束された結果を得た。
 
 アギーレ監督にとってホンジュラス戦は、そんな確認作業のような試合だったに違いない。
 
 9月、10月で4試合をこなしたチームがぎこちなかったのは、4-3-3という新しい課題を与えられたことが主要因ではない。硬直した前体制に鮮度を加えたい指揮官が、実験的なメンバーで臨んだからだ。逆にウルグアイ戦やブラジル戦のようなメンバーを組めば、前任のザッケローニ体制で続けた4-2-3-1で戦っても結果に大差はなかったはずだ。
 
 結局アギーレ監督は、過去2か月間は計算の成り立つワールドカップ代表を担保としてテストを進めて来たことになる。9月はサプライズを詰め込み、大化けする素材がいないかを見極めた。メディアも認識しないような選手を呼び寄せ、日本の底力を確認しようとしたのかもしれない。10月はフレッシュだが、もともと代表に肉薄していた実績のある選手を招集した。つまり最初の2か月間で新たな可能性を洗い出した上で、最後にアジアカップを戦うための確認作業をした。裏返せば、満を持して呼んだ内田、遠藤、今野、さらに9月は故障でプレーができなかった長谷部は、アギーレが見ても最も計算の成り立つ選手たちだったということだろう。
 
 効果はてき面だった。ホンジュラスは「アメリカと引き分け、メキシコに敗れてから来日」(アギーレ監督)し、北中米で戦えば必ずしも楽な相手ではなかったのかもしれない。だが長旅と時差調整、さらには慣れない寒さとも戦うハンディを抱えた内弁慶は「私が指揮してきたチームの選手たちとは信じられないほど戦う姿勢を欠いた」(エルナン・メドフォード監督)状態で、日本代表はまさに自分たちのサッカーを実践できた。
 
 岡崎がサイドからCFに、本田がトップ下から右に回り、アンカーの長谷部の前では遠藤と香川が並ぶなど、ザック時代と多少配置は変わっても、互いに特徴を知り尽くした選手たちは、違和感なく阿吽の呼吸で連動していった。試合前日にメキシコから合流したアギーレ監督は「1度しかトレーニングセッションに立ち会えなかった」そうだが、彼らは4-3-3というテーマの中でも、長く慣れ親しんだ互いの関係性を即興で見つけ出していった。
 
 例えば、ザック時代は長谷部、遠藤のボランチ2枚とトップ下の本田がトライアングルを描くのが基本だったが、この日は本田が香川に代わり、長谷部を頂点にした逆三角形に変化した。香川は最初から右サイドへとスライドし、本田との距離を詰め心地良くショートパスで絡む。香川が中央のトップ下の位置でプレーをすれば、遠藤はチームが攻撃中にもカウンターをケアし長谷部と並列近くまで下がって待機し、今度は遠藤がトップ下に進出すれば香川が降りてバランスを取る。一方でサイドに流れたインサイドハーフ(香川、遠藤)は、同サイドのウインガー、SBと絡んで攻撃を構築する。こうした関係性は、4-2-3-1の頃と大差がなかった。
 ただしザッケローニ前監督は、本田の「我が家」をトップ下だと信じて疑わなかったが、アギーレ監督は逆にミランでのプレーを輸入した。本田が右ウイングでの生き方を見つけ出した好影響もある。昨シーズンは、教科書通りにワイドに張り出し、あまり得意ではない個人での解決に挑戦し成果を出せなかった。しかし今シーズンは、より内側で2トップに近いポジションを取り、むしろ外側はSBのために開け、カウンター時には逆サイドからのボールに反応しゴールを陥れている。
 
 また岡崎はマインツで結果を出しているCFに移行し、香川もマルコ・ロイスとのポジションチェンジを繰り返すドルトムントでの光景に近づいた。さらに攻撃的資質の高い遠藤や柴崎も、ボランチより数メートル前でプレーする方が特徴を発揮しやすい。そういう意味で結果的にアギーレ監督は、より個々の特色を出しやすい微調整を施したという見方もできる。
 
 ビルドアップ時には、アンカーが両CBの間に入り最後尾に3枚を確保し、3トップは絞り気味にポジションを取り、両SBを高く上げている。アンカーには、高いカバーリング能力と攻撃の起点になる役割が期待されているのだが、この日はアギーレ監督が描いた通りに長谷部がソツなくこなした。
 
 一方で同サイドでの軽快な連動で打開しきれなければ逆サイドへ揺さぶり、リードされた相手が押し上げてくれば、早いタイミングで縦に斜めのロングボールを駆使し、カウンターでチャンスを広げる。
 
「このチームは、相手を押し込んでも、引いても仕掛けるオプションを持っている」
 アギーレ監督も自信の弁を残した。
 
 確かにホンジュラス戦は、守備で試される後顧の憂いがなく、存分に攻撃のバリュエーションを見せられた。もちろんワールドカップ後の活性剤が武藤のみという厳しい実情も再確認されたが、少なくとも直近の目標アジアカップに向けて、4-3-3は効果的な刺激になった可能性もある。
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)