マンガ『フジキュー!!!』は、バンド「感傷ベクトル」のミュージシャン田口囁一の作品。音楽とマンガを、商業媒体で並行して行う作者が描くのは、お金を稼ぐ仕事としての音楽活動。このシビアな問題をどう描くのか。

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マンガ『フジキュー!!!』(Kindle版)が発売されました。

作者・田口囁一は、ロックバンド「感傷ベクトル」のギターでありピアノであり作詞作曲担当。
ミュージシャンとして、CD『君の嘘とタイトルロール』をリリースしたばかりです。
感傷ベクトル - エンリルと13月の少年【MUSIC VIDEO】 - YouTube

元々は同人やWEBで活動を続けていました。
田口は2009年に集英社ジャンプSQで漫画家デビュー。2010年から『僕は友達が少ない+』という、ラノベのコミカライズをします。
もう一人のメンバー、春川三咲(ベース・作詞)は小説家。
『僕は友達が少ない+』の脚本を書き、まもなく発売される『礫色のエトランゼ』の作者でもあります。

2012年には「シアロア」というマンガ+音楽のセルフメディアミックス作品をリリースします。
感傷ベクトル「シアロア」特集 - 音楽ナタリー Power Push
『シアロアー田口囁一・春川三咲連作集-』
『シアロア』(CD)
好きなこと2つに挑みつつ、プロとして両方を仕事にしているのが、感傷ベクトルというバンドであり、漫画家・作家です。

『フジキュー!!!』は、音楽学校が舞台のマンガ。
主人公の不死原求が偶然入ることになった学校は、普段の授業と並行して、自主的な音楽活動を行わなければいけないシステム。
大原則として、音楽活動で利益を出す……お金を稼がなければいけない。CDを売ってもいいし、どこかの大会で賞をとってもいい。
実践しなければ意味が無い、音楽業界で仕事にはならない、という理念の学校です。
稼げなければ、退学。きびしい。
とはいえそれは、ミュージシャンが売れなければ音楽を続けられないのと同じことです。

不死原は、全く音楽を学んでいない、勢いだけの少年。ギターコードのFが押さえられず、力みすぎて弦を毎回切ってしまう有り様。
彼が組むことになった少女・星河うたは、才能のあるピアニスト。ところが人前で演奏できないという致命的な欠点を持っています。
実際彼らは、お金の絡む部分で、とんでもない大失敗もやらかします。
二人が組んで、果たしてこの学校でやっていけるのか?

興味深いのは、田口囁一というミュージシャンとして仕事をしている作者が、「音楽でお金を稼ぐ」行為をどのように描くか。
仕事であるからには、音楽は売れなければいけない。関わる人に対して責務を果たしていかなければいけない。

不死原と星河が、作中でバンドを組んで何を選択するかは、田口囁一の「商業音楽」への考え方になっていきます。
作中に出てくるプロの作曲家の少年・溺谷が、不死原と出会った時に感じる、プロ意識のなさへの激しい怒りと、ほんの少しのほほえみ。
「くだらないよ。でも……くだらないのも悪くないかもな」
音楽とマンガ、自主制作と商業。媒体を問わず活動してきた作者だからこそ、描けるものがあるはず。

感傷ベクトル -sentimental vector-

田口囁一『フジキュー!!!』(Kindle版)

(たまごまご)