今回記事で取り上げた「PL学園 幻の最強チーム」のルポは『野球太郎Vol.011 高校野球2014夏の思い出号』で読めます。

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プロ野球クライマックスシリーズ(CS)初戦を翌日に控えた先週10日、野球界に衝撃的なニュースが流れた。

▼桑田&清原ショック…PL野球部が廃部危機、部員受け入れ停止へ(サンケイスポーツ)

桑田真澄(元巨人ほか)、清原和博(元西武ほか)、立浪和義(元中日)、宮本慎也(元ヤクルト)……と挙げればキリがないほどのプロ野球選手を輩出し、春3度、夏4度の全国制覇を誇る高校野球の超名門、PL学園(大阪)野球部が、新年度の部員受け入れを停止することが明らかになったのだ。

2013年2月に起きた部内暴力で6か月間の対外試合禁止処分を受けた際に監督が退任。以降、専任監督の不在が続き、試合ではまったく野球経験のない同校の正井一真校長が“肩書き上”の監督を務めていた。しかし、この異常事態が今後も解消される見込みがなく、十分な指導体制が組めないことが部員受け入れを停止する要因だという。

ただ、冒頭で「衝撃的」とは書いたが、実は予感めいたものはあった。というのも、ちょうど読んだばかりのPL学園野球部にまつわるルポの中で、まさに今回の「廃部危機騒動」を予見する内容が書かれていたからだ。そのルポの冒頭部分を引用したい。

《昨年2月に起きた部内暴力に対し対外試合禁止の処分を受けて以降、チームは試合時しか取材を受けない。そのため、OBを中心に関係者らの声を拾いながら野球部の“今”に迫った。するとその中で、幾人かの口から「今年の夏、甲子園に出られなかったら終わってしまうかも…」との言葉が漏れた》

このルポは、先月発売された『野球太郎Vol.011 高校野球2014夏の思い出号』に掲載されたスポーツライター谷上史朗による記事「PL学園 幻の最強チーム」だ。

果たして、PL学園は今夏の大阪府予選決勝戦で大阪桐蔭高校に破れ、惜しくも甲子園出場はならなかった。つまり、「今年の夏、甲子園に出られなかったら終わってしまうかも…」というOBの言葉どおりになったのだ(野球好きな人には蛇足になるが、大阪桐蔭は今夏の全国制覇チーム。そのチームと決勝で対峙したのだから、監督が不在であってもPLが「全国レベル」のチームだったのは間違いない)。

谷上のルポによれば、今年4月に入部した1年生からすでに「一般受験」で入学した生徒だけになっているため、今後もこの状況が続くようだと戦力的な低下は否めず、いずれにせよ、「名門 PL学園野球部」の名を維持することが難しかったという。

《この致命的な状況を、PL学園の場合は決定権を持つ教団上層部がどう考えているのか。現状“そこ”がまるで見えてこない》と記されているのだが、この記事から一ヵ月が経ち、今回、教団上層部の意思が明確になったといえるだろう。

谷上のルポでは以降、PL学園野球部が負のスパイラルに陥ったターニングポイントともいえる、2001年の部内暴力事件、そしてその代がどんなチームだったのかを検証していく。

詳細は『野球太郎Vol.011』本誌をぜひ読んでいただきたい(既に次の『vol.12』も出ているのでご注意を)が、「PL学園 幻の最強チーム」というルポのタイトルにあるように、2001年の代はPL野球部史上においても、屈指の好チームだったという。実際、この代からは今江敏晃(千葉ロッテ)、小斉祐輔(楽天 ※「祐」の字は正しくは旧字体の「示へんに右」)、朝井秀樹(元巨人)、桜井広大(元阪神)と4人ものプロ選手を輩出している。その中から、チームで主将を務めた今江敏晃の言葉も紹介しておきたい。

《僕らの代は研志寮(野球部の寮)で1年生として丸々暮らした最後の代なんです。あの事件で研志寮から一般寮に移ったって思われていることが多いですけど、僕らが2年になった時すでに寝泊まりは一般寮に移っていたんです。だから、本当に最後の厳しい寮生活を経験したのが僕たち。それが自分たちが上になった途端、今まで通りじゃいけないと。正直、ちゃんとできていないヤツを見るともどかしい気分になることはありましたし、なんで俺らの時だけっていうのは残りました》

部内暴力という事実は許されるべきではない。だが今江の言葉も含めてこのルポを読むと、「連帯責任」という不条理さも改めて感じずにはいられない。

部の消滅危機、という喧噪の中、PL学野球部は今週末から始まる秋季近畿大会に出場する。ここで勝ち上がると来春の選抜出場が見えてくる。廃部の危機に立ち向かう野球部が甲子園を目指して───なんていうのは漫画の中の話だと思っていたが実際に起きてしまった。物語世界では大概にしてハッピーエンドを迎えるわけだが、現実世界では一体どんな結末を迎えるのか?

プロ野球に目を転じれば、セ・リーグのCSファーストステージで勝敗を分けたのは、阪神の福留孝介と広島の前田健太という、PL学園OB同士による痺れる対決だった。

今も昔も、日本の野球界にPL学園が残してきた足跡は大きい。それだけに、今回の「廃部危機」というニュースは切ないものがある。栄枯盛衰、といってしまえばそれまでだが、願わくば「強豪校として」でなくとも続けることはできないのか? 強くなければ部に存在意義はないのか? 野球の一番の魅力は、過去から未来へと記録や偉業を受け継ぎ、更新していく「継続性」「連続性」だ。そしてそれは、高校の部活動という「教育の場」においても通じるものがあると思うのだが。
(オグマナオト)