「入手困難」「幻の作品」も簡単に取り寄せ可能! 国会図書館「遠隔複写サービス」を使ってみた

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『ノルウェイの森』や『1Q84』で知られる小説家・村上春樹の作品の中に、たった一度月刊誌に掲載された切り、一度も単行本化されていない幻の中編小説があるのはご存じでしょうか? 熱心なファンの中には、この作品を読みたいがために神保町の古書店を巡り歩き、掲載誌を探す方も多いようです。

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ほかにも、漫画『ちびまる子ちゃん』や『ブラックジャック』のワケありな単行本未収録回や、『竜馬がゆく』で知られる歴史小説家・司馬遼太郎の幻の推理小説など、古本屋や書店ではなかなか手に入らない作品は数多くあります。

そんな入手困難な作品も、日本の出版物をすべて所蔵している国立国会図書館に行けば閲覧することが可能です。さらに国会図書館では、貴重な所蔵資料を複写できる「遠隔複写サービス」も実施しています。

遠隔複写サービスは、国立国会図書館が所蔵する文献の複写をインターネットや郵送で申請できるサービスで、わざわざ図書館へ足を運ばなくても目当ての文献を取り寄せることができます(来館して複写することも可能)。

国会図書館に所蔵されている文献であれば、絶版本であっても複写を依頼できるため、有名作家や売れっ子漫画家が過去に手掛けたワケあり作品でも取り寄せて読むことが可能なのです。

そうは言っても「国会図書館へ複写依頼」と聞くと、なんだか申請が複雑そうですし、敷居も高い印象を受けますよね。そこで、この記事では筆者が以前、文献研究目的で遠隔複写を依頼した際の一連の流れをレポートしていきたいと思います。

■ステップ1 国立国会図書館の利用者登録をする

複写サービスを利用するためには、前もって国立国会図書館の利用者登録を済ませておく必要があります。満18歳以上で本人確認書類を用意できる人であれば誰でも申し込むことができるので、郵送か来館して手続きをしましょう。

■ステップ2 複写する文献を指定する

利用者登録が済んだら、いよいよ複写の申請ができます。国会図書館のNDL-OPAC(国立国会図書館蔵書検索・申込システム)で目当ての資料を検索し、複写希望箇所を指定しましょう。その際、作品の著者名やページ番号が正しく記載されていないと複写できない場合があるので注意が必要です。もし、特定のページのみをカラーで複写したり、見開きで複写したい場合は、その旨を備考欄に記載しましょう。

ちなみに筆者が依頼したのは、以下の4作品です。いずれも雑誌に掲載されて以降、一度も単行本化されていない(もしくは絶版となっている)貴重な作品ばかり。ちゃんと複写してもらえるのでしょうか……。

■[今回遠隔複写を依頼した作品]

・『街と、その不確かな壁』 村上春樹
作品概要……『文學界』1980年9月号に掲載された中編小説で、その後に刊行された『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の試作的な作品。後に村上春樹自身が「失敗作」と言及しており、以降は単行本にも全集にも収録されていないため、ファンの間では知る人ぞ知る幻の作品とされている。

・『豚と薔薇』 司馬遼太郎
作品概要……歴史作家として知られる司馬遼太郎が、推理小説の分野に挑戦した異色作。1960年に単行本が発売された後、角川小説新書の『古寺炎上』に収録されて以降は文庫化されておらず、『司馬遼太郎全集』でも未収録となっている。現在『豚と薔薇』を収録した上記の2冊は数万円から数十万円で取引されており、司馬作品の中でも入手が難しい作品のひとつとされている。

・ブラックジャック「快楽の座」 手塚治虫
作品概要……雑誌『週刊少年チャンピオン』1975年1月20日号に掲載された漫画『ブラックジャック』の単行本未収録回。脳に電子装置を埋め込まれた鬱病の少年が、笑みを浮かべながら人を襲っていくというショッキングな内容で、初出の『週刊少年チャンピオン』を入手する以外は今のところ読む方法がない。

・ちびまる子ちゃん「まる子、夢について考える」 さくらももこ
作品概要……雑誌『りぼん』1995年2月号に掲載された『ちびまる子ちゃん』の単行本未収録回。何の脈絡もなくクラスメイトが死亡したかと思えば、突如謎の王子さまが登場したりと、ふだんのまる子ちゃんからは想像がつかない支離滅裂なストーリー展開が当時のファンの間で物議を醸した。

■ステップ3 複写箇所について確認の連絡が入る

複写を申請して4日後、国会図書館の複写貸出係の方から連絡がありました。筆者が複写を依頼した『ちびまる子ちゃん』のページ内に、一部カラーページがあったようで、カラーで複写をするか白黒で複写をするかの確認の電話でした。

紙資料を複写してもらう場合、白黒印刷で依頼するとA4/B4ともに1枚25.92円(税込み)ですが、カラーになると140.4円(税込み)になるようです。筆者は一部ページだけカラーで複写してもらうことにしました。

■ステップ5 郵送で複写物が届く

複写の申請をしてからちょうど一週間後、国会図書館から郵送で複写物と複写料金の請求書が届きました。

今回依頼したもののうち、『ブラックジャック』だけは蔵書資料に不鮮明な部分があるようで、複写が受理されなかったのが残念! ただし、不鮮明な部分があることを承知の上、再度複写を申請することはできるようです。

そして、無事に届いた幻の3作品はいずれも鮮明な複写で、何不自由なく読むことができました!



一番のお目当てだった村上春樹の『街と、その不確かな壁』は「失敗作」とは思えないほどに内容の厚い力作です。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のプロットとして読んでも資料的価値は高いですね。

文献研究やレポートの作成などで入手困難な作品を手に入れたいという方は、ぜひ遠隔複写サービスを利用してみてはいかがでしょうか。

(※遠隔複写は調査研究の用に供する目的でのみ申請が可能です)