4日で100万ダウンロード達成と、さすがの貫禄を見せた完全新作タイトル

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先日「ゲームのキーワードは『無料』」なんて書きましたが、そのことを改めて実感させられるゲームが、スマホアプリでリリースされました。それが『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』。1月23日にサービスを開始し、わずか4日間で100万ダウンロードを突破。あの『パズル&ドラゴンズ』が5ヶ月以上かかったことを考えると、驚異的な速度であることがわかります。

本作は国民的RPG『ドラゴンクエスト』シリーズでおなじみの、さまざまなモンスターたちを仲間にして育成・配合しながら、より強力なモンスターを生み出していく『ドラゴンクエストモンスターズ』で、シリーズ初となるスマホ向けアプリ。『進撃のバハムート』などで有名なサイゲームスと、スクウェア・エニックスの共同開発タイトルで、ビジネスモデルはF2P(フリー・トゥ・プレイ、基本プレイ無料のアイテム課金方式)です。大手二社が組んだだけあって、いやーよくできてますよ、このアプリ。

ゲームの中身はシリーズの根幹である「モンスターを育てて最強のパーティを作り上げる」要素が、うまくスマホ向けにアレンジされています。ボス相手でもラリホーで眠らせたり、ルカニで守備力を下げてタコ殴りにしたりと、バトルの工夫しがいがある作り。同系統の特技を連続すると連携が発生するため、素早さを考えてパーティを育てるなど、戦略性もばっちりです。とりあえずポチポチとボタンを連打していれば、ごり押しで勝てちゃう凡百のゲームとは、一線を画しています。

また、全体マップで探索できる範囲がどんどん広がっていき、冒険感を高めている点もグッドですね。スマホアプリにもかかわらずサウンドがしっかりしており、懐かしい名曲の数々や効果音などが流れるのも、世界観をうまく醸し出しています。他にもタップ&フリック操作で片手で遊べる点や、一回の探索が数分で終了し、オートセーブでいつでも中断できる点など、総じてスマホRPGのお手本のような作り。一方でキャラクターやストーリーなどは薄味に抑えており、総じてメリハリのきいた内容が特徴的です。

■老舗タイトルのビジネスモデルをいかに変えるか

ただ、おそらく本作のポイントはF2Pというビジネスモデルへの対応でしょう。テレビアニメでバトルの直前にCMが入るように、コンテンツデザインはビジネスモデルに影響を受けます。そのため人気ゲームのビジネスモデルを変更する際には、最新の注意が必要となるのは言うまでもありません。本作でも多くの人がこれまで慣れ親しんできた『ドラゴンクエスト』の世界観を壊さないように、さまざまな配慮がなされています。中でも広告に関する施策は、その代表的なものでしょう。

今やF2Pゲームにとって広告や宣伝は死活問題です。売上を上げるには、できるだけ多くのユーザーに無料でゲームをダウンロードしてもらい、遊んでもらう必要があるからです。ガラケーのソーシャルゲームでは、DeNAやGREEのようなプラットフォームが内包するSNSが巨大な口コミ発生装置となっていました。トップページにバナー広告を掲示してもらうなど、プラットフォームホルダー側の宣伝支援も受けられました。

しかしスマホアプリではApp StoreやGoogle Playなどからダウンロードしてもらうため、この「プラットフォームに紐づくSNS」の強みが活かせません。そのため多くのアプリでバナー広告やリワード広告などが乱れ飛ぶ状況になっているのはご承知の通りです。ガラケー時代よりましとはいえ、狭いスマホの画面で広告が表示されることに、遊びにくさや違和感を感じるユーザーもいるのではないでしょうか。

そこで本作では先行して無料の『ドラゴンクエストポータルアプリ』が、『ドラゴンクエスト』とセットで配信されました。その数、昨年末で300万ダウンロードを突破したとのこと。もちろん、本作もバッチリと宣伝されています。こうなると、もはや一つのメディアだと言って良いでしょう。いくら無料とはいえ、300万人ものアクティブユーザーを集めることは、やっぱり難しいんです。

まあ、最初から竜王の城が見えちゃったり、十字キーでの操作がしづらいなど、『ドラゴンクエスト』の無料配信には賛否両論がありました。しかし、やはり二手・三手先を見据えた施策だったことが分かります。冒頭の4日で100万ダウンロードという数字も、本アプリなくしては難しかったのではないでしょうか。これを契機にフランチャイズごと、またはメーカーごとのアプリによる情報配信が、さらに増えていくかもしれません。

■無料ユーザーを重視することが売上に繋がる?

ゲームバランスの配慮にも注目です。本作はF2Pゲームには珍しいほど、ゲームバランスに気が配られています。序盤ルートは一本道で、プレイヤーが誤って分不相応なダンジョンに迷いこむことはありません。ダンジョンの地形やモンスターの出現位置も、ストーリーモードでは固定です。総じて「パーティ構成は自由だけど、ルートなどは一定にすることで、ゲームバランスをきっちり保つ」という狙いが感じられます。プレイヤー間でコミュニケーションの要素が薄く、ソロプレイ志向が強い点も、これを後押ししています。

また、本作ではダンジョンに挑戦する際にサポートモンスターを一体、選択してパーティに組み込めます。しかし、サポートモンスターのレベルが自分のパーティ内にいるモンスターの最低レベルに下げられてしまうのです。そのため強力なサポートモンスターの助けを借りて、低レベルのパーティが難度の高いダンジョンをクリアすることが難しくなっています。言い方をかえれば「プレイヤーが外部要因を利用して、難易度を自発的に調整する」ことが困難な作り。これも商品寿命を延ばすという点もさることながら、作り手側のゲームバランスに対する意図ではないでしょうか。

もともとオンラインゲームソーシャルゲームでは、ユーザーがゲーム内で自由に行動したり、課金で強力なアイテムやキャラクターが入手できます。家庭用ゲームに比べて、ゲームバランスを的確に保つことが極めて困難なのです。そのため、ともすればリリース当初はおもしろかったゲームが、どんどんつまらなくなっていく、という現象がおきます。運営とは様々な施策を通してこの状況を改善し、当初のゲームバランスを保ち続ける行為だとも言えます。

ちなみに崩れたバランスを修正する時、運営側はえてして課金ユーザーをつなぎ止めることに引きずられがちです。課金ユーザーこそ売上の源泉だからです。しかし、それによってバランスがさらに悪化し、ユーザー離れが進むことが少なくありません。そのため、まずはゲームバランスを適切に保つことが大事。本作でも、まずは圧倒的多数の無料ユーザに向けて、きっちりとしたゲーム体験を提供しようとする姿勢が感じられました。その上で、より効率良く遊びたい人だけ、課金してくださいという印象です。

おもしろいもので課金ユーザーは数パーセントといわれ、タイトル間でそれほど変わりません。一方で一人当たりの課金額を上げ続ける施策は(コンプガチャ問題などを見るように)様々な意味で限界があります。そのため、サービス開始時にできるだけ多くのユーザーを集め、無料ユーザーに楽しんでもらうことで、結果として有料ユーザーの絶対数を増やしていく・・・。昨今のF2Pゲームには、こうしたトレンドが感じられます。本作もまたその一つであり、今のところその意図は大いに成功しているといえるでしょう。

ただ、一つ懸念点があるとすれば、こうした無料ユーザーの囲い込み合戦は、企業の体力勝負になりがちです。無料でガッツリ遊べるゲームを作るには、大きなの開発予算が必要だからです。そのためF2Pゲームでは、将来的にフランチャイズの寡占化が進む恐れがあります。本作についても、ドラクエだからできる点は否めません。そしてスマホアプリに続いて家庭用ゲームもまた、無料化の波に襲われています。両者は近いうちに融合するでしょう。その時にどのようなゲームが求められるのか、まだ答えは見えません。

まあユーザーとしては、そんな難しいことは考えずに、とりえあず遊んでおもしろけりゃいいんですよ! その意味で本作は、まさにオススメの一本だと言えるでしょう。
(小野憲史)