『しままん』bomi著、木瓜庵:原作/カドカワコミック・エース

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疲れた、ちょっと休みたい。
こんな時によく言われる言葉に「あ〜、南の島に行きたい」なんてあるけれど、そんな気持ちを満たしてくれて気分をちょっとだけ夏に巻き戻してくれる、ゆるり青春島マンガが「少年エース」で連載中の『しままん』(bomi、原作:木瓜庵/既刊1巻発売中)だ。

なぜ秋も深まる今この時期に、夏の島マンガか?

だんだんと忙しくなるこれからの季節、“島”という「人間関係の狭さ」と「雄大な自然」が共存する、ちょっと特別な場所とめならべ(八丈島の方言で「女の子」という意味)たちがもたらしてくれる、日常の小さな幸せを感じてみるのもいいと思ったからだ。

これまで『僕は友達が少ない はがない日和』の作画や『ゆーゆる執行部』などを生み出してきたbomiが描くストーリーは、小難しいことはなくいたってシンプルだ。

両親の海外出張で、父の故郷で叔母のいる八丈島で1人暮らしすることになった中学生の神湊 晴(かみなと はれ)と、島に住む破天荒な天然ボケの名古 浬(なご かいり)、浬のクラスメイトであり“浬フリーク”な宇喜多 咲耶(うきた さくや)、そして晴と同じ年の従姉妹・赤崎まあゆの4人で物語は基本的にゆるゆると、時にドタバタと進んでいく。

同じ東京都とはいえ八丈島も島。イマドキな中学生がいきなりそんなところにやってきて大丈夫なの? しかも、都会っ子の晴は、夏と田舎が嫌いというコンボ! さあ彼女はどうなっていくのか――というのが『しままん』のスタート地点だ。

何にもないけれど大自然があって、島の人たちと交流して……ああ、こんな風に島の人たちとのゆるやかな交流を描きながら、時に道ばたでヤギに衝突されたりしながら、1人の女の子の成長物語を描いていくんだな、なんて思ったらいきなり始まる謎解き展開が、ゆるり青春にちょっとしたスパイスとして投入されている。謎解き展開とはいっても殺伐したものではなく、日常の不可解な出来事を独自の観察眼でひも解いていく『氷菓』にそれは近い。

誰もいないはずの空き家、玄関の明かりがついている。そこにうごめく影は何だったのか? 噂されている通り、正体は幽霊なのか? その正体を探っていくうち、今まで見えなかった人のあたたかさに触れていくことになる。

さまざまなクエスチョンを解き明かしていくうち、「人の気持ちなんて考えられない」「なんとなく1人でいることが多かった」晴は少しずつ、誰かと一緒に過したり、何かを共有していく喜びを知っていくのだ。

晴の成長を促すのは、ともすればただの欠点にしかならない、島の人間関係の狭さだ。たとえば、植物園の職員は学校の担任教師でもあり、クラブの監督は近所のコンビニの店長でもある。浬のような年齢の少女も「島での暮らしは助け合い」とさらりと他人に手を貸す。

晴は謎を解くほど人のあたたかさを発見するが、彼女は決してそれを声に出して誰かに話さず、ひとり微笑むところも是非見てほしい。マンガの中でなくとも、日常生活を送っている中で同じように誰かの小さな優しさを発見しても、人はきっとこんな反応なのだ。

……と色々と書いたが、結局は「みんな仲良くってキレイな場所で生活ってなんだかいいよね!!」という、するっと読めるカワイイテイストの絵と、味付けは塩こしょうです! のような明快なおいしさが詰まっているのが『しままん』なのだ。
(川俣綾加)