当日は小雨が降る中、多くの人がグラス片手に村へ繰り出した。

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ワインの本場、仏ブルゴーニュ地方で十数年に1度しか開かれないワイン祭がある。ブドウ栽培者の守護聖人・聖ヴァンサンの日を記念して1月下旬におこなわれる「サンヴァンサン・トゥールナント」祭だ。なぜ十数年に1度なのか。

それは同祭の毎年の開催地が、ブルゴーニュの各村により持ち回りされるため、1度その村でおこなわれると次回の開催はかなり先になるからだ。例えば1938年の第1回の開催地だったシャンボール・ミュジニー村で、次のサンヴァンサン・トゥールナント祭が開かれたのは16年後の1954年。その次は25年後の1979年。そして1979年以降は、今年で34年が経つがまだ同村では開かれていない。ワイン好きにとっては、今年の開催地を逃したら次回がいつになるか分からず、欠席が許されない祭りなのだ。

内容は、15ユーロ(約1800円)で7種類試飲できるグラス付きのバッジを購入し、村の各所にあるスタンドを飲み歩くというもの。試飲用スタンドは土日の2日間にわたって村内各所に設けられる。試飲用グラスも、その村を代表するワインの特徴によって(スパークリングならフルート型グラスというように)毎年変わる。今年1月26日と27日におこなわれた開催地は、ブルゴーニュ北部に位置するスパークリングワインの中心地、シャティヨン・シュル・セーヌ村(初開催)だった。

フランスのスパークリングと言えば、シャンパーニュ地方で造られるシャンパンが有名だが、ブルゴーニュのスパークリング、クレマン・ド・ブルゴーニュも「シャンパン」と名乗れないだけで(シャンパーニュ地方のワインしかシャンパンという名称を使えない)、おいしいものが多い。また価格もシャンパンのように高くない。今回はその産地らしくスタンドには各種スパークリングがずらりと並んだ。

各村で輪番制を採ることは経済的にもメリットがある。サンヴァンサン・トゥールナント祭を開くことは、その地区のワインが注目され販促につながるということ。今回、シャティヨン・シュル・セーヌ村での催しは、シャンパンに隠れがちなクレマン・ド・ブルゴーニュをアピールする絶好の機会となった。

この祭りの特色は、とにかく飲んで楽しむことに尽きる。ブルゴーニュでは毎年11月に中心地のボーヌ村で「栄光の3日間」と呼ばれるワイン祭も開かれるが、内容自体はプロ向け。一方でサンヴァンサン・トゥールナント祭は、老いも若きも村中で酔っぱらおうという雰囲気が満載。聖ヴァンサン像を乗せた神輿をかついだり、スタンドでサーブしてくれる地元生産者のおじさんと仲良くなって、こっそり2杯目をいただいたりなど、和気あいあいとしている。ワインの小難しい知識など必要ないし、まずは目の前にある地酒を飲んでみようという体感型イベントだ。

来年の開催地はサントーバン村。同村は偉大な白の産地、ピュリニィ・モンラッシェ村とシャサーニュ・モンラッシェ村の間にある隠れた名産地だ。ここも次回が初。次も見逃せない! 
(加藤亨延)